総務大臣の諮問機関である情報通信審議会は4月12日,電話を全国あまねく提供するための制度「ユニバーサル・サービス」について議論する委員会会合を開催した。議論のポイントは,(1)どの通信サービスをあまねく提供すべき対象とするのか,(2)どのような基金制度で資金面を支えるのか――である。

 今年5回目となる今回は,事務局である総務省側から現行制度における見直しのポイントが示された。なかでも注目されるのが,「不採算地域や高コスト地域における必要な補てん額を直接算出する方式の採用が望ましくなった,と考えられなくはないか」と提示したこと。

 現状は,NTT東西地域会社の電話サービスの不採算地域の赤字を採算地域の黒字で補てん。それでも埋めきれない部分の赤字を全事業者が負担する制度となっている。これに対して今回の総務省の発言は,不採算地域を単体として見るように改める案と言える。背景には,東西NTTの競合事業者のIP電話や直収電話が次第に立ち上がっているという状況がある。従来の方式には,東西NTT側から「赤字がすべて補てんされない」,競合事業者からは「東西NTTが競争対抗で値下げした分にも基金が拠出される」と双方から不満が上がっていた。

 委員会の委員からは強力な反対意見は出なかった。

 ただし,不採算地域や高コスト地域の判断基準についてはさまざまな意見が出た。「通信のビジネスは線があって何人ぶらさがるかで売っている。米国のケーブル・テレビのように,1マイルに30世帯のユーザーがいるかどうかといった指標で不採算地域を判断できないか」(慶応義塾大学メディア・コミュニケーション研究所教授の菅谷実専門委員),「電話サービスのコストが(採算地域や標準的なコストの)何倍や,上位何%といった方が分かりやすい」(東京工業大学工学部教授の酒井善則委員)。

 また,東西NTT,日本テレコム,ボーダフォンのそれぞれが試算したユニバーサル・サービスのコストが公表された。直収電話や光・IP電話への移行,級局別など様々な条件で算出している。これについては「数字が出てくると参考になるが,危険な側面もある」(青山学院大学経営学部教授の東海幹夫委員)と数字の一人歩きに懸念を示す声もあれば,「無制限に支払うとなると,支払う側の国民が納得しないのでは」(早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授の三友仁志専門委員)として数値の扱いに慎重さを求める意見が相次いだ。

 最終的に委員会主査である法政大学経済学部教授の黒川和美専門委員の「今回は何も決めないこととしたい」との方針で,議論は次回以降に持ち越された。なお,今回は携帯電話の扱いについては議論がなかった。前回までの委員会では,携帯電話をユニバーサル・サービスの対象にするのか,仮に対象とした場合の基金のコストはどの程度なのか,といった点が議論されている。

 総務省はユニバーサル・サービスの議論を秋までに収束させ,2006年4月にも基金の運用を始めたい考え。次回の会合は4月26日に開催する。東西NTTから電話の提供コストが高い地域に関する詳細なデータが提示される予定。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション