FTTHサービス「TEPCOひかり」を提供する東京電力の光ネットワーク・カンパニーは,都心部では提供エリアのさらなる拡大を目指す一方,ブロードバンドが未整備の地域に向けたサービス提供の取り組みも進めている。東京電力光ネットワーク・カンパニーの林英雄・ネットワーク計画部兼ダークファイバサービス部長(写真左)と田代哲彦・ジェネラルマネージャー(写真右)に話を聞いた。

--TEPCOひかりの世帯カバー率や提供エリアの現状は。

 東京電力は関東で約8万1000キロメートル(2004年9月末現在)の電気通信事業,および電気事業用の光ファイバを持ち,関東の1都5県の87区市町で約800万世帯をカバーしている。このエリアは大体1200万~1300万世帯あるので,世帯カバー率は3分の2というところだ。国道16号線の内側の住宅地域を中心に,エリアを拡大してきた。サービス未提供の場所が残っているため,2005年度はこの地域でのエリア拡大に力を入れる。2005年度末にはカバー世帯数を1000万まで持っていきたい。
 一方2年前から,サービスを提供済みのエリアから離れた場所へもTEPCOひかりのサービス・エリアを展開している。ADSLサービスが未提供,あるいは提供中だが通信速度が低い地域にもニーズがあるからだ。

--ブロードバンド未整備の地区での開通事例はあるか。

 一例が2004年4月にサービス提供を開始した千葉県富里町の一部地域だ。ADSLがなくISDNだけの通信環境でブロードバンド環境を望む住民が多かったが,ある程度のユーザーを獲得できると判明したためサービス提供を開始した。同時期に,千葉の小見川町の一部地域でもサービスを始めている。
 FTTHの誘致に動いた茨城県江戸崎町(当時,現在は稲敷市の一部)の誘致サイト公開が影響していると思うが,誘致運動がいろいろな場所で始まった。群馬県妙義町や山梨県笛吹市の一部地域で必要数分の加入者が集まり,サービス開通が決まっている。

--サービス提供条件は。

 どのくらいの加入者数が集まるかということになる。まずは我々が,その地域でサービスを提供するための設備コストを見積ったり,販促展開の方法や競合他社の出方などを考慮するなどして必要となる加入者数を提示する。住民の方からは仮申込書を出していただく。ただ,必要となる加入者数は場所によって異なる。ネットワークの状況が場所によって違うからだ。
 例えば変電所に光ファイバが来ているが,それをFTTHに活用できるケースとできないケースがある。空いている光ファイバがあればFTTHサービスを提供する装置を置く。しかしそうでなければ,光ファイバを張り足すこともあるし,幹線部分で他社の光ファイバを借りることもある。

--サービス提供を実現しやすくするには,どういう工夫が必要となるか。

 地方自治体がブロードバンド誘致に熱心だと,かえって住民があまり反応しないケースがある。逆に住民が中心となって活動する地域の方が,加入者が集まりやすいと感じている。また地方自治体はニュートラルな立場を求められるケースがある。こうした点を考慮すると,NPOを結成してそれを地方自治体がバックアップする方法が有効ではないか。電気店や地元の有力者などが仲間を集め,選挙運動のように日々各戸を歩いていただくのがよいだろう。主体性や危機感を持ち,ブロードバンドを整備することで産業育成や教育,入手できる情報の格差が減ると訴えることも重要。
 我々も緊張感を持って交渉に当たっている。サービスを提供するにしても,加入者が集まらないと赤字のたれ流しになるからだ。

--最も多くの加入者を必要としたケースでその数はいくらだったか。参考として教えてほしい。

 人口密度が高くない地域だったが,600世帯だった。サービス提供までに時間がかかるエリアはあるが,1都7県の営業エリアならサービスを提供することは可能だ。
 我々は「FTTHの提供計画はない」とは言わない。「サービスを提供するにはこうすることが必要」という条件をきちんと提示させていただいている。声をかけていただければ,現地にお邪魔して話をしようというのが我々のスタンス。問い合わせは積極的に受ける。

--都心でもブロードバンドを利用できない環境があると聞く。こうした方々に向けての解決策はあるか。

 光ファイバを引き込めない公団やマンションは都心にもある。景観を良くするなどの理由で管路を地中に這わせているエリアだ。この管路に空きスペースがなかったり,古い管路が錆びて土が入ってきて詰まったり,外圧がかかってつぶれたりすることがあるため,このようなことが起こる。
 こうしたケースの解消策として,ラスト・ワンマイルで無線を使うメニュー「マンションタイプ 5GHz無線プラン」を提供している。

(山崎 洋一=日経コミュニケーション