NTTドコモの無線LANサービス「Mzone」が積極的にサービス・エリアを拡大している。昨年末には東京メトロのほぼ全駅(168駅中165駅)をサービス・エリア化した。しかしそこで「なぜ,携帯事業者のドコモが無線LANサービスに注力するのか?」との疑問が沸き起こる。
 そこで同社ユビキタスサービス部の長谷川卓W-LAN担当部長に,今後無線LANサービスと携帯電話サービスをどう結びつけていくのか,戦略を聞いた(写真)。

--地下鉄駅構内を積極的にエリア化しているのはなぜか。

 ビジネスマンが快適に使えるサービスを提供すべきと考えており,地下鉄の駅はそのビジネスマンの動線だからだ。喫茶店やファストフード店,レストランがビジネスマンにとって最もうれしい空間なのだろうか?
 ドコモは最も魅力的な空間は地下鉄だろうと考える。我々のコアビジネスはFOMA。そして無線LANサービスはノート・パソコンではなく携帯端末で使うものと考えている。テーブルにノート・パソコンを広げて使うサービスを目指しているわけではない。
 地下鉄以外にも,JR東日本の主要駅や首都圏の私鉄もカバーしている。日本テレコムやNTT-BPの無線LANサービスともローミングしているからだ。

--携帯だけでなく無線LANサービスも提供する理由は。

 社内のメールを出先で確認するユーザーは多いが,添付ファイルをFOMA網経由でダウンロードして開くのは現実的でない。従量制であるFOMAのパケット通信料が高くつくからだ。
 そこでFOMAの端末に無線LANを搭載する。すると「FOMAを使ってどこでもテキスト・ベースの情報を閲覧でき,大容量のデータは無線LANでダウンロードする」という関係が生まれる。

--トラフィックを無線LANサービスとFOMAで分散し,FOMA網の容量がひっ迫するのを避けようという狙いはあるのか。

 トラフィックの分散は狙いではない。そもそも無線LANを使える携帯電話端末は1機種だけなので,トラフィック分散にはあまり効果がない。あくまでも高速通信と定額料金がサービスの狙いだ。

--FOMAと無線LANを両方使える端末としてNECのN900iLがあるが,これを使うということか。

 N900iLはFOMAも無線LANも使えるし,実機でも接続できることを確認している。しかしそれとは別に,モトローラ製のビジネス向け端末を今春発売する。FOMAと無線LANを両方搭載。さらに海外でも使えるようGSMにも対応させる。
 この端末はPDA機能を持つスマートフォンでもある。英シンビアンの携帯電話向けOS「Symbian OS」を採用する予定で,アプリケーションを追加できる。アプリケーションを開発するためのSDK(software development kit)も提供する。ビジネスマンは社内にリモート・アクセスをすることもあるだろう。こうしたニーズに応えるためIPsec対応のVPNクライアントも搭載する。

--自営の無線LANも使えるのか。もしそうならその分だけFOMAのパケット通信を使わなくなるのではないか。

 企業の中や家庭では,自営で構築した無線LANを使ってインターネットにアクセスできる。無線LANの通信規格はIEEE 802.11bに対応。IEEE 802.1x対応のサプリカントも持ちセキュリティにも配慮している。
 無線LANはFOMAの代替ではなく補完だ。無線LANと組み合わせることでFOMAはさらに強力になる。例えばメールの受信を例にとると,FOMAは“取りに行かなくても届く”プッシュ。一方無線LANはプッシュではないが,ダウンロード速度や料金で有利だ。

--N900iLと今春出すモトローラの端末で売り込み方はどう変わってくるか。

 N900iLはVoIPソリューション用で,構内向けのソリューションとして提案している。モトローラの端末は売り方も変わる。VoIPには対応していないが,一方で海外でも使えるPDAの役割も果たせる端末だ。これまでMzoneは,企業向けにはあまり積極的に売ってこなかった部分もあるが,今後は企業に新しい一体型端末を持っていきMzoneを積極的に売り込む。この端末の発売をきっかけに会員数を数万に増やしたい。
 春に発売する端末は今後の試金石と考えている。受け入れられればコンシューマ向けのFOMA・無線LAN一体型端末も考えたい。

--今後はどのようなエリアへの展開を考えているか。

 今回のエリア拡大によって,東京メトロ全線,しかもホームだけではなくコンコースでも使えるようになった。東京メトロの看板を見て地下に下りればサービスを使える。東京以外の大都市でも同様の提携話が進行中だ。大規模テナントビルやオーナー・ビルのロビーなどへの展開も進めている。
 列車内でのサービス提供も大いに興味がある。最大の需要は新幹線だろう。ただ時速300kmで走行する車内できちんと通信するための技術的な課題,それからコストの課題をクリアする必要があると思う。

(山崎 洋一,白井 良=日経コミュニケーション