総務省は1月11日,「携帯電話用周波数の利用拡大に関する検討会」の第6回会合を開催した。同会合では携帯電話事業の新規参入や周波数の割り当て方針について,大学教授などの有識者が議論を繰り広げている。

 これまでの会合では,NTTドコモやKDDIなどの携帯電話事業者やソフトバンクBB,イー・アクセスなどの新規参入を目指す事業者が意見陳述を行った。今回の会合は,各社の主張を基に,大学教授やマスコミ,シンクタンクなど様々な分野出身の専門家が互いの意見を出し合った(写真)。

 例えば,黒川和美・法政大学経済学部教授は現状の携帯電話業界が4社による寡占状態にあるとの認識に立った上で,「新規参入事業者を入れてもっと競争が起きるようにして欲しい」と意見。ただし,具体的な割り当て方法が非常に難しいことも告白。「新規事業者に割り当てる帯域幅,あるいは1.7GHz帯がいいのか800MHzがいいのか判断できない,正直困っている」。その上で,「割り当ての公平性を保てる方法は周波数オークションぐらい」と語った。

 関口和一・日本経済新聞社論説委員も,黒川教授のオークションに理解を示した。「日本は携帯電話事業者に2GHz帯を無料で割り当てたのは良くなかったのではないか。もっと経済価値を考慮する必要がある」と意見。「オークションは日本ではなじまないという声があるが,それはやり方次第。今回の周波数割り当てをオークション導入のきっかけにしてもいいのではないか」とコメントした。

 両氏の意見に反対したのが多賀谷一照・千葉大学法経学部教授。「周波数オークションの議論はそう簡単ではない。オークションが成立するのは周波数帯から得られる利益がある程度決まっていることが前提。ところが現状は,無線LANとの組み合わせなど,周波数の環境が変化する要素が多い。単純にオークションで経済価値を計算できないのではないか」と意見した。

 こんな中で,周波数割り当て後のチェックが必要だと訴えたのが,村上輝康・野村総合研究所理事長。「割り当てる前に,事業者がどの程度周波数を利用するかを予測するのは不可能。それなら,実際に割り当てた後に定期的に利用状況を報告する義務を持たせる方法もある」と提案した。三谷政昭・東京電機大学工学部教授も「周波数を割り当てた後も,有効に使っていなければ事業者に返上させる仕組みを作り,危機感を持ってもらうことも必要ではないか」と意見した。

 2時間以上にわたる議論で様々な意見は交わされたものの,会合の収束につながるような方向性は見出せずに終わった。今回の検討会の大きな注目点である,ソフトバンクBBの800MHz帯参入についても,「800MHz帯については技術的な側面から論点をまとめて,次回の検討課題としたい」(座長の土居範久中央大学理工学部教授)となり,議論は持ち越しとなった。

 なお,今回の会合では,1.7GHz帯で割り当て可能な帯域幅が当初の想定よりも減ることが明らかになった。総務省は早ければ2006年3月までに1.7GHz帯の帯域幅上下合わせて最大70MHzを用意。このうち30MHzは全国展開で利用できるが,40MHz幅は他システムとの干渉から東京,名古屋,大阪エリアに限られる。総務省は当初,全国展開で利用できる周波数帯として20MHz×2の40MHzを利用できるとしていた。だが,「ガードバンドの必要量などを検討した結果,全国使用については40MHzの確保は困難となることが明らかになった」(総務省)。

 傍聴席にはソフトバンクBBの孫正義社長の姿もあった。会合の後孫社長は記者団のインタビューに応じ,「こうしたオープンな検討会の場で周波数政策が議論されるのは歓迎」とコメント。ただし,「検討会で録音を認めていないなど,透明性についてはまだまだオープンになっていない点も多い。そもそも,検討会の構成員の選定理由さえもどう決まったのか知らされていない」と不満顔。「いっそのこと,周波数の議論を国民投票にかけてみてはどうか」と語った。