米国連邦通信委員会(FCC)のロバート・ペッパー通信政策局長は12月21日,米国の通信政策について東京で講演。「競争を絶対に阻害してはならない」という点を強調しながら,物理的な設備からアプリケーションやコンテンツに至るまで,ボトルネック設備や反競争的な行為を防止できるように,各レイヤーで競争環境を分析することの重要性を説いた。

 講演の中でペッパー局長は,米国の通信市場の概要やブロードバンド市場の競争政策,IP電話と既存の固定電話への規制の違いについて――など,米国通信政策の現状を幅広く紹介した。

 競争政策の一例として挙げたのが米国のブロードバンド市場について。米国では日本と異なり,ベライゾン・コミュニケーションズやSBCコミュニケーションズなどの地域通信事業者は,光ファイバの開放義務が緩和されている。これは米国のブローバンド市場が日本とは大きく異なり,CATVが有利な競争環境にあり大きな市場シェアを持っているため。「全米の約90%の家庭はCATVを利用できる環境に既にあり,ブロードバンド市場におけるシェアは約60%にもなる。しかも,米国は(局からユーザー宅までの)加入者線が長いためDSL(digital subscriber line)には向いていない。CATVが支配的な状況にある」(ペッパー氏)。

 こうしたFCCによる競争市場分析によって,米国の地域通信事業者は,一般家庭向けの光ファイバの開放義務がなくなった。「市場シェアが高いCATVに対抗するため,ベライゾンもSBCも光ファイバの大規模な敷設を始めた」と,競争を活性化させる効果が出ていることを強調した。

 特別セミナーを主催した甲南大学通信情報研究所の所長である佐藤治正経済学部教授は,日本の通信政策動向について講演。ペッパー通信政策局長の講演は,佐藤所長の講演を受ける形で行われたが,「安価で高速なブロードバンドの普及が進んでいる日本は,政府の政策と通信事業者の投資がうまく機能した結果だ。競争政策の理想的なモデルとして日本に注目している」と絶賛した。

(宗像 誠之=日経コミュニケーション