写真1 UTスターコムのルー社長

 米UTスターコムは,2004年末で30億ドル弱の売り上げを見込む通信機器メーカー。5000人規模の開発拠点を中国・浙江省の杭州に建設し,2004年10月に移転を開始した。PAS(personal access system,日本のPHSに相当)の端末/システムやソフトスイッチなどで世界最大規模のシェアを誇る。杭州のオフィスで,ホンリャン・ルー社長兼CEO(写真1)に今後の戦略を聞いた。(聞き手は松本 敏明=日経コミュニケーション編集)

--中国ではPASを使うユーザーが3Gにどう移行すると見ているか。

 私はPASは3Gよりもはるかに高度な技術だと考えている。ここ10年程度は技術の進化がなかったが,2005年ころには新しい技術を展開できるだろう。日本でも使えるようになるはずだ(写真2)。

 日本と中国の違いはユーザーのコストに対する敏感さ。我々は音声で十分と考える人が使うPASで,米マクドナルドや米ウォルマートのように大衆化を狙う。米メイシーズのように高級な商品を扱う店の名前は有名だが,規模や売り上げはそれほど大きくない。付加価値が高い3Gはまさにこれだ。ユーザーが支払うコストは,PASなら3Gの1/4~1/5程度で済む。中国では6割以上が音声だけで十分。我々は,まずはこっちの市場を狙う。


写真2 2005年初頭にも出荷するPAS端末のモックアップ
IEEE 802.11a無線LANとPASのデュアル端末である

 我々は移動体のネットワーク・インフラ機器を得意にしている。端末でもトップレベルのシェアを持つが,競争が激しい。日本のメーカーも端末では利益が出ていないはずだ。

--中国では第3世代携帯電話はこれからどのように展開していくのか。

 実際にサービスが始まるのは2005年以降になる。現実的には2008年の北京オリンピックを前に,2007年ころに本格化するだろう。3Gは今後の技術。10年後にはもっと安くなっているだろう。我々も当然,PASだけでなくそれに向けた技術開発もやっている。

--コストダウンはどう実現できるのか。

 IP化がそのベースとなっている。PASの交換機をフルIP化した実績もあり,IPによる交換は我々の得意分野だ。世界最大規模のソフトスイッチ製品もある。現在,同時にソフトスイッチで3200万~3300万人を制御している。1台の交換機で同時に250万人を交換できる。

 さらにIPによるコアネットで,あらゆるネットワークを同じシステムで管理するソリューションを作った。これならユーザーがブロードバンドや無線,VoIP(voice over IP)などのサービスをすべて一つの課金体系で利用できる。このソリューションがあるため,固定電話と携帯電話のコンバージェンス(融合)・サービスも我々ならすぐに対応可能だ。

--ブロードバンドに対する戦略は。


UTスターコムが杭州に建設した開発拠点

 今後,究極のIP化は光ファイバによるブロードバンドと見ている。我々は最大1Gビット/秒の速度が出るPON(passive optical network)設備を提供している。

 ブロードバンドで実現する大容量データを扱うアプリケーションはビデオしかない。我々はIP化でビデオの視聴をもっと簡単にする技術を開発した。これはユニキャストで動画コンテンツをユーザーに提供するシステム。サーバーにIP化した大量の動画コンテンツを蓄積し,ユーザーからの操作でどのシーンでも容易に引き出して視聴できる仕組みを構築している。視聴者が放送中の番組を停止させたり,シーンをさかのぼって見たりできる。