「通信インフラは意外に強かったが停電には悩まされた」──。

 震源地にある小千谷市役所の企画財政課企画係の吉澤靖主幹は,通信インフラへの影響が軽微だった事実と,停電を起因とするシステム・トラブルが発生したことを明らかにした(写真右)。

 小千谷市では,2年前に自前で光ファイバを敷設。市内イントラネットを構築した。市役所を核として,学校や市の出先機関など54拠点をスター型に接続している(写真下)。ケーブルは主に電柱に敷設しており総延長は80kmにも及ぶが,吉澤主幹が地震発生後に被害を調査したところ,「土砂崩れで電柱が流された個所の1カ所を除いて,切れていなかった」(吉澤主幹)。「地震の直後も通信機器のランプは正常を表す緑色。自家発電装置を備えている消防本部との間は通信できていた」(吉澤主幹)という。

 市役所内の各種サーバーも,ハードウエア上のダメージはほとんどなかった。しかし,それらを稼働し続けることはできなかった。地震発生直後に小千谷市全域が停電したためだ。非常用の発電機は,サーバー室専用のものを昨年夏に導入していた。ところが「揺れの影響と思われる問題で発電機が故障」(吉澤主幹)。給電することができなかったのだ。市役所全体の発電機は電源の供給先を非常時の執務に必要な場所に絞っており,サーバー室には届かなかった。【注】

 そこでサーバー類は,無停電電源装置(UPS)を使ってしばらく運用。バッテリー切れを起こす前に正常にシャットダウンした。その後,小千谷市でも東北電力の商用電源がいったん復活したため各サーバーを立ち上げた。しかし,しばらくして再び停電が発生。その時点では「すでにUPSのバッテリーは使い果たしていた」(吉澤主幹)ため,Webサーバーや電子メール・サーバーなどのシステムがクラッシュしてしまった。

 「あわてて立ち上げなければよかった」と吉澤主幹は悔やむ。しかし吉澤主幹も専門の担当者ではないため,再度の停電までは想定できなかった。「大きな行政組織ではないのでシステム専任担当者という人間はいない」(吉澤主幹)。こうした人手不足によるシステム運用のもろさが,地震災害という非常時に表れてしまった。同サーバーを使った市のホームページが復旧したのは,25日・月曜の夕方となった。

 今後の課題として吉澤主幹は,「まずは緊急時のシステム・マニュアルを作成したい。加えて予備電源が稼働するかどうかも定期的な点検が必要だと痛感した」と語ってくれた。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション


【注】11月6日時点では小千谷市役所はこのように説明していたが,その後の取材で,市役所全体の発電機からの給電は,地震により庁舎内に発生した漏水が原因でサーバー室へは届けられなかったことが判明した。