「IP電話は固定電話や携帯電話よりつながりやすかった」──。

 震源にほど近い長岡市に店舗を持つ,ある小売業の情報システム部門の課長はこう証言した。地震が発生すると,被災地への電話は発着信が規制される。今回の新潟県中越地震でも,固定電話,携帯電話ともに同様の措置が取られた。IP電話も,想定されているトラフィックを上回る通話があれば輻そうが発生する可能性があるが,今回の地震では比較的スムーズに通話できたようだ。

 この小売業は,通話料金の節約だけでなく,実際に震災などで固定電話が輻そうした際の備えとして今年の初めにIP電話を導入していた。「同業他社から北海道での地震の際,IP電話が固定電話よりつながりやすかった」と聞いていたためだ。同社は本部や店舗内の構内交換機(PBX)を,IP電話のゲートウエイ装置に接続。そこから音声パケットをブロードバンド回線経由で送受信している。

 まるで今回の震災を予測したかのような準備のよさだったが,残念ながらそのメリットは限定的だった。IP電話自体は問題なく運用できていたが,建物の崩壊や余震に備えるため,顧客とともに社員も店外に避難し,事務所にある電話機を利用できなかったからだ。そのため,「かかりにくい携帯電話を何度もかけなおして連絡を取り合った。今後は無線LANで接続する携帯型のIP電話機を防災用に配備する必要があるのかもしれない」(情報システム部門の課長)。

 ただし,震災時には停電も同時に発生する。予備の電源を確保していなければ,IP電話自体が利用できなくなる。この小売業の場合は,停電に見舞われなかったことが幸いした。もし災害対策にIP電話を活用することを検討するのであれば,非常時の電源確保もセットにして考える必要があるだろう。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション