日経コミュニケーションはこの7月から8月にかけて,企業ユーザーの実態調査を実施した。対象は国内市場に上場している企業を中心に,非上場の有力企業を合わせた3748社。アンケート形式で,社内ネットワークの構築に採用したWANサービスやIP電話導入の有無など,全57問に回答いただいた。最終的な回収数は1312社(回収率35.0%)。この結果,意外な事実がいくつも浮かび上がってきた。今から5日間,以下のテーマで概要をお伝えしたい。

●第1回 判明!国内1300社が選んだ通信サービスはこれだ
●第2回 検証! 音声/データの統合時代は終わったのか
●第3回 発見! IPセントレックス・サービスの意外なユーザー像
●第4回 追跡! 期待を「裏切った」インターネットVPNに明日はあるか
●第5回 <記者の眼>「企業ネットの新潮流に乗り遅れるな」

勝ち負けが分かれてきたWAN分野

 連載1回目となる今回は,企業ユーザーの方が最も気になるであろう通信サービスの利用率ランキングを報告する。特に人気の高いIP-VPN,広域イーサネット,インターネットVPNの新型WAN3種では,勝ち組企業がはっきりしてきている。

 まずIP-VPNでトップに立ったのはNTTコミュニケーションズ(NTTコム)の「Arcstar IP-VPN」(表1)。2位はKDDIの「KDDI IP-VPN」。以下,富士通の「FENICSビジネスIPネットワーク」,日本テレコムの「Solteria」と続く。

表1●IP-VPNの利用率
順位(昨年)サービス名(事業者)利用率
1(1)Arcstar IP-VPN(NTTコミュニケーションズ)30.0%
2(2)KDDI IP-VPN(KDDI)23.0%
3(3)FENICSビジネスIPネットワーク(富士通)15.5%
4(4)Solteria(日本テレコム)14.3%
5(8) フレッツ・オフィス(東西NTT) 4.7%

 NTTコムはIP-VPNで圧倒的な存在感を示した。約3割のユーザーが選択しており,2002年から3年連続で首位を守り続けている。都市部では大手企業へ食い込む営業力,都市部以外では「通信サービス=NTT」というブランドの強さが効いているのだろうか。
 気になるのが日本テレコムだ。筆者は企業ネットワークの取材をしていると,高い確率で同社のSolteriaユーザーに当たる。しかし利用率はKDDIや富士通の後塵を拝している。今やソフトバンク・グループの一員となった日本テレコムだが,法人向け市場でこれが吉と出るか凶と出るか。来年以降の調査で明らかにしたい。

 その富士通が,通信事業者を押しのけて3位にランクインしたことも興味深い。同社は大手インテグレータとしては唯一,自営のネットワークを構築し通信サービスを提供している。「合わせ技」の効果は着実に出て始めているといっていい。この事実を通信事業者は認識し,インテグレーションにも力を入れるべきではないだろうか。

東西NTTの「フレッツ」が台頭

 IP-VPNでは意外なプレーヤーも出てきている。NTT東西地域会社だ。「フレッツ・ADSL」や「Bフレッツ」でおなじみのフレッツ・シリーズの「フレッツ・オフィス」(「フレッツ・オフィスワイド」も含む)が5位にランクインした。

 利用率は4.7%だが,昨年が1.7%だったことを考えれば伸びが目立つ。上位4社がわずかとはいえ,軒並みポイントを落としているだけになおさらだ。フレッツ・オフィスは東西NTTそれぞれにおいて県間接続が認められ,2003年6月に接続が完了。これにより,東西NTTそれぞれの地域でVPNを構築できるフレッツ・オフィスワイドのエリアが拡大し,使い勝手が大幅に向上したことが奏功したと見られる。東西NTTの各支店の営業担当者が売り込みに本腰を入れ始めた証左ともとれる。

広域イーサはパワードコムが「V3」

 広域イーサネット部門では,パワードコムの「Powered Ethernet」が38.4%で1位。こちらもIP-VPNのNTTコムと同様に3年連続のトップである(表2)。

表2●広域イーサネットの利用率
順位(昨年)サービス名(事業者)利用率
1(1)Powered Ethernet(パワードコム)38.4%
2(6)e-VLAN(NTTコミュニケーションズ)28.4%
3(5)Wide-Ether(日本テレコム)14.3%
4(3)メトロイーサまたはアーバンイーサ(東西NTT)11.5%
4(4)ワイドLANサービス(東西NTT)11.5%

 パワードコムの数字には,各地域の電力系の通信事業者も含む。大都市圏以外でも,電力系の通信事業者は健闘している。NTTグループがサービスを提供していないエリアにも展開していることが多々ある。電力系の事業者は従来から,光ファイバを使った伝送速度の高いサービスに特化していた。その結果として,光ファイバを利用する広域イーサネットの展開がスムーズに運んだ面もあるだろう。

 しかし,うかうかもしていられない。広域イーサネットでも,IP-VPNと同様にNTTコムの存在が大きくなってきた。昨年に比べ,なんと20ポイントも伸ばしている。

 実はこれにはワケがある。昨年12月,NTTコムが旧クロスウェイブ コミュニケーションズ(CWC)の広域イーサネット事業事業を引き継いだからだ。これにより,NTTコムはCWCのユーザー企業約400社をまるまる手中にしたことになる。

 ただ,CWCのユーザー・ベースを入手しただけ以上の効果もある。広域イーサネットで先行したCWCのノウハウとの相乗効果だ。パワードコム連合の首位が早期に陥落する可能性は少ないが,NTTコムの躍進が予想される。

 というのもIP電話サービス,特にIPセントレックス・サービスではNTTコムの強さが目立つからだ。導入済みと今後導入予定のユーザーで見ると,回答企業241社中でNTTコムが63社の26.1%と4分の1強を占める。これに対し,パワードコムのIP電話事業を統合したフュージョン・コミュニケーションズは14.2%。つまり,パワードコムを合わせた新生フュージョンでも,NTTコムには10ポイントも足りない。

 ここで筆者はIP電話の隆盛からこう思う。NTTコムのIP電話が伸び続け,その中継網として同社の広域イーサネットの採用企業は増えていくだろう。このNTTコムに「待った」をかけるのは,新生フュージョンのIP電話サービスの強化である。

日本テレコムはインターネットにシフトするか

 インターネットVPNは今年からマネージド型のサービスを調査項目に加えた。インターネットVPNといえば「自営」が基本。ただ最近では通信事業者が設計,導入,運用管理までを提供する「サービス」が注目されている。このようなマネージド・インターネットVPNが,企業ユーザーに受け入れられているかどうかを調べてみた。

 トップに立ったのは,NTTコムの「OCNビジネスパックVPN」。利用率は30.6%で,他を大きく引き離した(表3)。2位以下は,日本テレコムの「ODN-Biz マネージドVPN」,KCOMの「インターネットVPNサービス」,インターネットイニシアティブ(IIJ)の「IIJ VPNスタンダード」が続いている。

表3●マネージド・インターネットVPNの利用率
順位サービス名(事業者)利用率
1OCNビジネスパックVPN(NTTコミュニケーションズ)30.6%
2ODN-Biz マネージドVPN(日本テレコム)6.7%
3インターネットVPNサービス(KCOM)4.7%
4IIJ VPNスタンダード(インターネットイニシアティブ)3.6%
5Clovernet(NECネクサソリューションズ)2.6%

 ここでもNTTコムの強さが際立つ。ただ,2位の日本テレコムの動向が注目される。ソフトバンク・グループとなったことで,インターネットを利用した企業向けの通信サービスに本腰を入れてくる可能性が高いからだ。

 もっとも,インターネットVPNの市場でNTTコムのような従来のWANサービス事業者が覇権の道を歩めるかどうかは微妙なところだ。

 NECや富士通,日立製作所のようなインテグレータが既に企業に入り込み,インターネットVPNを構築しているからだ。かゆいところに手がとどく独自のサービスも提供している。また,本誌の取材では,大手通信事業者の広域イーサネットから,有線ブロードネットワークスのマネージド・インターネットVPNに乗り換えるユーザーも出てきている。有線ブロードのサービス・エリアは政令指定都が中心だが,大半の企業の拠点を十分にカバーできる。

 次回は「検証! 音声/データの統合時代は終わったのか」をお届けする。IP電話網を構築する際,内線網ではWAN回線を有効活用するためデータと音声を統合するのが従来の常識だった。ところが,ユーザー企業の現場ではそれが“非常識”になっていたのだ。

(市嶋 洋平,蛯谷 敏=日経コミュニケーション