ADSL(asymmetric digital subscriber line)の干渉ルールが新たなバージョンの策定に向けて本格的に動き出した。国内通信技術の標準化団体である情報通信技術委員会(TTC)が8月19日と20日,スペクトル管理サブ・ワーキング・グループ(SWG)の会合を開催。新たな標準について技術的な議論が交わされた。

 TTCでは2003年末にDSL技術間の干渉ルールについて定めた標準「JJ-100.01」の第2版を策定。各事業者はこのJJ-100.01にのっとり,東西NTTの回線でADSLを提供している。第2版では初版に掲載されていなかった,12メガ,24メガ,そして40メガ超のADSL,長距離向けのReachDSLのそれぞれの技術が盛り込んだ。

 今回議論している第3版では主として上り3メガや5メガ,さらに10メガに拡張したADSL技術。そして下り60メガで上り10メガのVDSL(very-high DSL)技術を盛り込む方向で話し合いが進められている。それぞれの技術は2004年7月に同SWGで暫定合意。9月にかけて各社が提供を開始する見込みだ。ただし,第3版が正式に策定されるまでの時限的な運用である。

 第3版では従来の枠組みを大きく変える方向で話を進めている。この点が今後の議論を大きく左右しそうだ。

 第2版までは,ADSL回線間の干渉計算を1.1MHz以下の周波数帯域だけを対象としていた。1.5メガや8メガなど初期のADSLがこの帯域を使っているからだ。しかし,第2版で盛り込んだ24メガや40メガ超のADSLは,周波数帯域をそれぞれ2.2MHzと3.75MHzまで拡張。今回議論している新技術はすべて1.1MHz以上も利用している。このため,従来通り1.1MHzまでの判定だと「実情と異なる」との意見がある。

 ISDNの扱いも注目される。現在はISDNをNTT回線における“最悪のノイズ源”として採用。対象とするADSL技術が外部に与える干渉がISDNよりも軽ければ,基本的にNTT回線への導入が許可される。ところが,一部のSWG参加者から「ISDNよりも影響が少なければどんな技術でも認められるのか。そもそもISDNを基準としたままでいいのか」といった意見が出始めている。このほか,干渉の計算に利用する際の,メタル回線の構成や搬送波の単位時間に乗せるデータのビット数なども議論の対象だ。

 また,“場外戦”も始まりつつある。従来は集合住宅向けのFTTH(fiber to the home)サービスなどで,マンション内に限定して利用しているVDSLはTTCのスペクトル管理の対象外だった。しかし,同サービスを提供しているKDDIが「このまま,NTT回線にVDSLサービスを導入してもいいのか」と問題を提起し始めた。

 スペクトル管理SWGではこれらの点を話し合い,今年の末にもTTCでJJ-100.01の第3版を成立させたい考えだ。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション