総務省の「電波有効利用政策研究会」は7月22日,電波利用料制度の見直しについての検討結果をまとめた最終報告書案を公開した。同案では,具体的な徴収対象が明記されていないため,「無線免許が不要の無線LANやETC(料金自動収受)システムも電波料の徴収対象となる可能性がある」などの報道が飛び交い,総務省がこれを否定する説明会を急きょ開催するという一幕もあった。同報告書の狙いを,総務省 総合通信基盤局電波部電波政策課 炭田寛祈企画官(写真)が語る。

--最終報告書案の狙いを改めて聞きたい。
 今回の騒動で「無線LANやETCを徴収対象になる可能性がある」点ばかりが注目されるのは非常に残念だ。報告書の狙いはもっと別のところにある。それは,日本の無線市場を成長させるための電波利用料の考え方を定めたものだ。
 携帯電話を中心として,日本は世界でも有数のモバイル先進国になった。市場は今も成長しており,2013年に92兆円規模に達するとも言われている。日本有数の国際競争力のある分野だ。だが周知のように,無線サービスを提供するための周波数は限りのある資源。今後予想される需要を考えれば,明らかに足りない。
 だから,今後成長の見込める無線システムにいかに多くの周波数を割り当てるかが無線市場全体の成長を左右する。そのためには,周波数をより効率的に活用する仕組みが必要だ。
 今回見直そうとしている電波利用料制度は,こうした背景に立ったものだ。

--電波利用料制度は,具体的には何を見直すのか。
 無線免許を交付している事業者には,必ずその利用料として「電波利用料」を徴収している。従来はどの周波数帯を使う無線システムも,一つの無線局ごとにすべて同じ金額の電波料を徴収していたが,一部に経済的価値を導入できないか考えている。
 具体的には,より需要の多い周波数帯には,無線局にも相応の電波利用料を負担してもらう仕組みだ。簡単に言えば「受益者負担」の考え方を適用する。免許を取得する側にコスト意識が生まれるため,「より周波数を有効利用しよう」というインセンティブが働くだろう。こうした利用料負担の方法に少しづつ移行していきたい。
 徴収した電波料そのものの使い方も変える。従来はアナアナ変換など旧来のシステムの“整備”用途が多かったが,今後は無線市場育成のための投資にあてる。「周波数倍増計画」と呼んでいるが,効率的な周波数利用のための基礎技術や研究開発に使う。携帯電話サービスを受けられない地域をなくす地域格差是正にも利用したい。
 だから,現在募集中のパブリック・コメントでは,ぜひこの基本的な考え方に対する意見を聞かせて欲しい。繰り返すが,「個別のシステムでいくら電波利用料を取るか」といった議論は,その後にくるものだと考えている。

--だが,電波利用料を徴収されるメーカーや関係者にとっては「どのシステムが課金対象になるか」は重要な事柄だ。
 たしかに,電波利用料を新たに徴収するとなれば,該当する通信機器メーカーなどには大きな負担になる。そういった情報に,過敏に反発する気持ちも分かる。
 我々としても,電波利用料に対する基本的な考え方が固まり次第,個別のシステムの課金について議論を尽くしたい。情報家電,無線ICタグなど,日本の無線市場をけん引していく可能性のあるシステムは無数にある。こういったシステムをどう育成していくかが,今後議論すべき重要なポイントだと考えているからだ。

(聞き手は蛯谷 敏=日経コミュニケーション



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