携帯電話を使った企業向け内線電話サービス「OFFICE WISE」で,KDDIが新たな“隠し球”を用意している--。その存在を明言したのは,ほかならぬKDDIの小野寺正社長だった(写真上)。本誌のインタビューに応じた同社長に対し,NTTドコモの無線LAN対応FOMA端末「N900iL」への対抗策について尋ねた時のことだ。

 6月に発表したOFFICE WISEの特徴は,市販の携帯電話機を社内では内線電話機として,社外では通常の携帯電話機として使えるところ。付加料金を支払えば携帯電話同士の内線通話が完全定額になる。転送や保留など基本的な内線機能も備える。

 利用料は1回線当たり月945円。IP電話の対抗商品として,IP電話機の導入を検討している企業にもアピールする。専用の携帯電話端末にVoIP(voice over IP)機能を搭載しIP電話システムに相乗りするNTTドコモの戦略とは真っ向からぶつかる。

大規模なインフラ構築に時間がかかる

 ただしライバルの動きは急だ。NTTドコモはN900iLを9月にも発売するタイミングを目指して,営業活動を大々的に展開中。既に大阪ガスという大手ユーザーを発表した。ボーダフォンに至っては7月から,市販の携帯電話機が使える仮想内線電話サービス「ボーダフォン モバイル オフィス」を始めた。KDDIも水面下で営業活動をしてきたものの,OFFICE WISEを商用化するのは11月30日。ライバル2社に遅れをとっている。これは,OFFICE WISEの最初のユーザーが,11月末の稼働開始を予定しているためである。

 しかもKDDIのOFFICE WISEを導入できるのは事実上,大規模なオフィスに限られる。au(KDDIと沖縄セルラー電話)携帯電話を1000回線以上契約することが条件となっているからだ。また,携帯電話の契約回線数が1000台の場合で1000万~5000万円程度の構築費用も必要になる。

  写真下 KDDIが社内に設置した小型基地局ここまで大がかりになるのは,OFFICE WISEが,ユーザー企業のオフィス・ビルにKDDIの携帯電話基地局(写真下)や小型交換機を設置することで携帯電話同士の内線通話を実現する仕組みだから。ユーザー企業の社員がこの携帯電話を使ってビル内の基地局経由で電話をかけると,小型交換機が内線通話と見なして折り返す。こうしたシステムをオフィスに導入する上で,どうしても構築期間が長くなり,工事費用もかかってしまう。

OFFICE WISEの小型版も準備

 だがKDDIの戦略を,現在発表されているOFFICE WISEだけで判断するのは早計だ。冒頭の「隠し球」として,新たなサービスを水面下で準備している。現時点では詳細な内容は不明だが,小野寺社長は「数百回線の下の方を対象にした,OFFICE WISEの小型版」を示唆。この言葉からうかがい知れるのは,NTTドコモやボーダフォンが狙う中小規模のオフィス市場に向けたサービスであること。OFFICE WISEと同様に一般の携帯電話機を使うタイプで,近くサービス内容を発表する見通しである。

 携帯電話事業者は3社とも,携帯電話機を内線端末化するサービス,いわゆる「モバイル・セントレックス」の商用化を急いでいる。その仕組みの違いから「無線LANを使い中小オフィスをカバーするNTTドコモ,携帯電話設備をユーザー企業に設置し大規模オフィス取り込むKDDI」という構図が出来上がりかけていた。だがKDDIが中小規模のオフィスを対象にしたサービスも投入することで,各事業者のサービスの競合が本格化することになる。今後はモバイル・セントレックスの先進導入事例をどれだけ早く増やせるか,法人ユーザーの獲得競争がますます激化しそうだ。

【緊急連載 モバイル・セントレックス革命】
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