上りの速度を拡張したADSL(asymmetric digital subscriber line)サービスが,当初予定の今夏から開始できるかどうか微妙な情勢になってきた。国内の通信技術を標準化している情報通信技術委員会(TTC)における技術的な議論が2転3転しているからだ。

 具体的には,ADSLなどDSL技術について話し合うTTCの「スペクトル管理サブ・ワーキング・グループ(SWG)」において議論が紛糾。上位組織である「DSL専門委員会」に判断を委ね,6月25日に上り拡張の導入を決める会合が開催された。しかし議論はまとまらず,採決に至らなかった。結局,議論は再度SWGに戻され議論をし直すこととなった。

 前進はあった。SWGは全会一致が原則であったが25日の専門委員会で,「8割の賛成で合意とみなすようルールを改定した」(関係者)。早ければ7月2日や22日のSWGで結論が出る可能性がある。ただし場合によっては年末に実施される予定のDSLのTTC標準改定までずれこむ可能性もある。

 なぜここまで議論が紛糾するのか。まず,ADSLの上り拡張が他のDSL技術の下り伝送に悪影響を与えるという点がある。また,各ADSL事業者の上り拡張の実現方式が異なり,「上り拡張」でひとくくりに議論できないという事情もある。

 さらにADSLの上り拡張と並行して議論が進められている,VDSL(very high speed digital subscriber line)の議論も微妙に関係している。「TTCでADSLの上り拡張技術を認めるのであれば,NTT回線を使ったVDSL技術も一緒に認めるべきだという議論が出てきており調整が難しくなっている」(関係者)という。

 ADSLの上り拡張サービスは,ADSL事業者のソフトバンクBBとアッカ・ネットワークスは昨年11月に上り速度を従来の1Mから3Mビット/秒に高めると発表。それぞれ年初と春から利用できる予定としていたが,現時点で投入を延期している。また,イー・アクセスはこの6月に1Mから5Mビット/秒にすると発表。8月以降投入するとしているが,こちらも正確な開始時期は見えない状態だ。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション)