来月に再編成から5年めを迎えるNTTグループ。競合する通信事業者からは,東西NTTの「再々編成」を望む声が高まっている。ソフトバンクの孫正義社長は,「NTT持ち株会社があるからこそ,東西NTTが密接に絡む関係ができあがっている。資本関係や人事交流,サービス・ブランドもバラバラにすべき」と主張する。大手通信事業者のある幹部は,「東西NTTをもっと細かく分割すれば,意見がまとまらずに競争し始めるのではないか」と,さらなる分割論を唱える。

サービスのメニューも料金も東西同じ

 こうした声が出る背景には,東西NTTの度重なる連携振りがある。東西NTTは,どちらもNTT持ち株会社の100%子会社。兄弟同士ではあるが,5年前に分割したれっきとした別会社である。にもかかわらず,東西NTTの電話,専用線などほとんどのサービスは,名称,内容,料金とも全く同じ。違いがあるのは,ADSL(asymmetric digital subscriber line)の「フレッツ・ADSL」やFTTH(fiber to the home)の「Bフレッツ」などごく一部だけである。

 東西NTTの電話接続料を同額にするため,NTT東日本がNTT西日本の不足分を「東西交付金」として補てんしている。2003年度は,これが184億円にも達した。しかも,東西NTTが,互いのエリアに参入してサービスを提供することも一切ない。今夏に始める「集合住宅向けIP電話サービス」のように,発表文を東西NTT連名で出すことさえある。密接に連絡を取り合っていることは疑いようがない。

「もはや東西NTTは競争関係にない」

 そして,3月末に突じょ発表されたNTT西日本の社長交代は,東西NTTの連携が強固なものであるとの印象を確固たるものにした。NTT東日本の副社長だった森下俊三氏(写真)が,体調を崩した上野至大社長に代わって,NTT西日本の社長に就任したのだ。

森下俊三氏 KDDIの小野寺正社長は「こうしたNTTグループの一体化が,大きな問題なんだ」と,4月末の決算発表会の席で怒りをぶちまけた。小野寺社長の顔つきも,最高益を達成した誇らしい笑顔から一変。とたんに険しくなった。別のある通信事業者の幹部も,「東西を競争させるために分割したはずなのに,全く競争していない。それどころか,東日本から西日本に社長が動くなんて,ちょっとひどすぎないか」と憤る。

 非難を浴びた森下NTT西日本社長は,5月14日の決算発表の場で反論した。「小野寺社長の主張は全く理解できない。7~8年前に東西を分割する議論をしていた時は,地域通信は競争が起こりにくかった。だから,東西を分けお互いに競争させようということになったはずだ。ところが現実には,ADSLや光ファイバで地域通信に激しい競争が巻き起こっている。この状況で,NTT東日本からNTT西日本に人が動いていったい何がおかしいのか」。東西NTTはこれまで通り,連携方針をひた走る考えだ。

競合相手の示す再々編の方法は三つ

 当然ながら競合事業者は,東西NTTの連携を容認していない。再々編後のNTTの姿はどうあるべきか。競合事業者たちの声は,(1)資本分離,(2)細分化,(3)水平分離,の三つの道筋に集約される。

 一つめは,東西NTTの間の資本関係を断ち切るという方法。総務省が2000年から2002年にかけて開催した「IT競争政策特別部会」では,NTT持ち株会社と子会社の出資比率が議論になった。ただ,NTTグループは出資比率の引き下げは必要ないと猛反対。結局,この特別部会の答申では,出資比率の問題に触れただけで終わった経緯がある。

 二つめは,JRや電力並みに東西NTTをさらに細かな地域単位に分割するという案だ。ただし,分割すればするほど,通信サービスの需要が少ないエリアは苦しくなる。難しいのは,全国どこでも使えるという加入電話のユニバーサル性を誰が守るかという点。赤字エリアの地域会社は,電話を維持できなくなるかもしれない。ブロードバンドなどの新サービスも,資金力がないエリアでは今以上に提供しにくくなる恐れもある。

 三つめは,東西NTTの設備部門とサービス提供部門を「水平分離」する案だ。NTTの地域通信部門内での競争だけでなく,他の通信事業者との競争環境を完全にしようという考えである。しかし,設備会社になってしまえば投資に対するインセンティブが弱くなる。国などが出資する「公団」方式では,効率に疑問が残る。

 東西NTTから見れば,自らを弱体化する可能性がある資本分離やさらなる分割に反対するのは当然だ。だからといって,東西NTTの連携が本当に最善の道なのか。内部からも疑問の声は出ている。NTTグループのある幹部はこう言った。「NTTという会社は,実は“小さくなるほど強くなる”。大きい会社の中で人任せで眠っている人が働き出すからだ」。実際,10万人も東西NTT社員をリストラした後に再雇用した新会社は,2003年度にそろって黒字化を達成している。

(中川 ヒロミ=日経コミュニケーション)