上り速度を3Mビット/秒に高速化したADSL(asymmetric digital subscriber line)技術の導入が,早くとも今年の6月まで延期されることが明らかとなった。関係者によると,情報通信技術委員会(TTC)のスペクトル管理サブワーキング・グループ(SWG)のメンバーによる2月16日の非公式会合で,調整が不調に終わったという。

 同SWGはADSL回線同士の干渉について議論している。ソフトバンクBBとアッカ・ネットワークスは上り3メガADSLのサービス提供の意向を表明済みだが,開始できるかどうかを含めいったん振り出しに戻った格好だ。

 関係者の話を総合すると,議論の焦点となっているのは,上り3メガ技術が既存のADSL回線の下り速度に悪影響を与える恐れがあるということ。これに加えて上り3メガ技術が,(1)ADSLチップ・ベンダー間で異なる,(2)TTCが定めた干渉ルールである「JJ-100.01」に掲載されていない,(3)ITU-Tの標準でない--といった点を巡って議論が紛糾した。

 16日の会合では,現在の干渉ルールであるJJ-100.01の第2版をこの6月にも第3版に改訂。そこに上り3メガ技術を盛り込むことで,サービスを提供する方向で話がまとまったという。

 ただし道は険しい。ある関係者は「第3版では,上り3メガ技術よりも大きな話がある。干渉ルールを根本的に見直す考えが出てきており,議論が紛糾するのは必至」と指摘する。2002年末から2003年春にかけて繰り広げられた,総務省のDSL作業班のような激しい議論が再燃する可能性が出てきている。

 考えられる変更は,干渉を判断する基準やDSL技術の見直し。これによって,JJ-100.01第3版の成立以降に導入する技術は,たとえ第2版のルールで認定されていても第3版で規制を受ける可能性がある。例えば,距離や回線の収容場所,信号出力などが制限される。TTCでは改訂方法を,3月から6月までに詰めていく見込み。

 上り3メガADSLを巡っては,昨年12月から今年の1月にかけてTTCで4回の話し合いが持たれた。しかし結論には至らず,今回の非公式会合が開かれたという経緯がある。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション)