上り速度を3Mビット/秒に高速化したADSL(asymmetric digital subscriber line)技術を巡って,ADSL事業者の意見の対立が続いている。ADSLの干渉問題を議論している情報通信技術委員会(TTC)は1月29日,スペクトル管理サブワーキング・グループを開催したが,11時間かけて議論しても意見はすれ違ったまま。ソフトバンクBBとアッカ・ネットワークスは,上り3メガADSLの開始を表明済みだが,サービスを開始できない状況が続いている。

 問題となっているのは,上り3メガ技術が既存のADSL回線の下り速度に悪影響を与える恐れがあることだ。TTCのスペクトル管理SWGが,既存のルール「JJ-100.01第2版」に基づいて干渉を計算したところ,方式によって異なるものの「NTT局から3.5km以下」,「2.5km以下」といった制限を付ければ問題ないという結果が出た。この結果通りに運用すべきと主張したのが,イー・アクセス,NTT東日本などである。

 これに対して,長野県のADSL事業者である長野県協同電算(JANIS)が反発。同社が実施した実験を基に,「1.5km以下」という制限でないと既存ADSL回線の下り速度に大きな影響を与えるため容認できないと強く主張し続けた。「我々は,難視聴地域でADSLを使うテレビ放送を提供したい。そのためには,NTT局から3.5km離れたユーザーでも下り4Mビット/秒を確保したい。ところが,上り3メガを1.5km以上で使うと既存回線の下り速度が4Mビット/秒よりも低下するため,放送品質を維持できない」(JANIS)。

 一方,ソフトバンクBBとアッカは上り3メガADSLを一日も早くサービス開始にこぎ着けたい立場。ソフトバンクBBは,「JJ-100.01の2.5km以下と,JANISの1.5km以下の両方の条件を満たす1.5km以下だったら,暫定的に開始しても問題ないはず」と主張。アッカも,「1.5km以下のサービスを止める理由はないのではないか」と詰め寄った。

 しかしNTT東日本は,「JANISの実験結果だけで出た1.5km以下という数字で,制限を厳しくするのは問題ではないか」と主張。イー・アクセスも,「このような手順で制限を決めるのには反対」と言って,歩み寄りを見せない。結局,TTCでは合意できないため,ADSL事業者の会合を別途開いて,合意できるまで話し合うことになった。

 もっとも,ADSL事業者同士の会合は12月~1月に3回開催したが合意できずに終わっている。今後の事業者同士の会合で,妥協案がまとめるのは簡単ではない。上り3メガADSLの開始には,まだ時間がかかりそうだ。

(中川 ヒロミ=日経コミュニケーション)