ソフトバンクの孫正義社長が昨年8月に明らかにし,物議をかもしていたIP電話の特許に新たな動きが出てきた。本誌が特許庁に請求し入手した資料によると,ソフトバンクが出願中の5件の特許のうち,3件について「特許として認めるべきではない」と訴える文書が提出されていた。ソフトバンクの孫社長は本誌の取材に対し「特許出願にまつわる通常のプロセス。まだ内容を見ていないのでコメントできない」と回答した。

 対象となるソフトバンクの特許は,(1)無線端末を子機として使ったIP電話(特許公開番号2003-18294),(2)料金を支払ったうえで使う公衆IP電話(同2003-37614),(3)IPベースのPBX(構内交換機)について定めた企業向けIP電話(同2003-143323)の3件。いずれも出願しただけで,成立に向けた審査請求がなされていない。それぞれに,同じ特許事務所を代理人とする文書が出された。

 この文書は,芝浦工業大学工学部の宮口庄司教授と流通システム開発センターが共同で出願した「管理IP網」と「IP電話システム」に関する2件の特許と学会論文を持ち出し,ソフトバンクの出願は成立すべきでないと指摘。これらの文献がソフトバンクの特許内容を包含し,かつ出願時期が早いと主張している。文書は昨年10月に特許庁に提出し,12月に受理されている。文書の作成者について代理人は「お答えできない」(アドバンス国際特許事務所の安形雄三所長)と回答を避ける。

 この手続きは,「刊行物等提出」と呼ばれるもの。以前に,「同様の特許が出願されている」,「文献が学会などで公開されている」といった情報を提供する。特許庁が対象となる特許を審査する際に参考とする。特許が成立した後に不服がある場合は,刊行物等提出ではなく「無効審判」を行う。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション)