総務省は1月21日,実施を凍結していた電力線通信のフィールド実験を解禁すると発表した。総務省令を今月中に改定し,来月中には実験が可能となる。電力線通信とは家庭内の電力線(電灯線)を,通信回線として使う。電力線通信用モデムのケーブルを電源のコンセントに差し込むことで,インターネットへのアクセス回線として利用できる。10M~30MHz程度の高い帯域に信号を乗せることで,数十Mビット/秒の高速通信ができる。

 ただ,従来の実験で電柱から各家庭への引き込み電力線から空中に電磁波が漏えいしてしまうことが明らかとなった。そのため,アマチュア無線,短波や中波のラジオ放送,船舶通信などに悪影響があり,日本アマチュア無線連盟など関係団体が反対の意思を表明している。2002年にフィールド実験が取り組まれたが,専門家からは「漏えい電磁波のレベルが高すぎて問題あり」との意見が続出した。

 こういった理由から総務省の研究会は「高速な電力線通信は実用化すべきではない」との結論を2002年8月に出し,議論がいったん打ち切られていた。ところが総務省は電力線通信の検討が政府の2003年度のIT政策に盛り込まれたことで,条件付きながら実験の許可へと動いた。

 具体的には,(1)漏えいする電磁波の軽減技術を実装する,(2)他の通信や周囲の設備に悪影響を与えない,(3)場所や運用日時など実験計画を明らかにし,結果を報告する――などの条件を定め,総務省の許可を受けることで実験を可能とした。帯域は2M~30MHzである。

 総務省は「今回の措置はあくまでもフィールドでの実験に関するもの。電力線通信の実用化とは切り離して考えている」(総合通信基盤局電波部電波環境課)としている。電力線通信の実用化は一歩進んだが,実験結果と関係団体の反応によっては再度凍結される可能性もある。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション)