総務省は12月16日,「携帯電話の番号ポータビリティの在り方に関する研究会第3回」を開催した。携帯電話の番号ポータビリティ(MNP:mobile number portability)とは,携帯電話でサービス事業者を変えても同じ電話番号がそのまま使える制度。研究会での議論は,第1回,第2回と同様,推進派と慎重派で議論が平行線に終わったが,座長の斉藤忠夫・東京大学名誉教授は,「もう,導入するかどうかではなく,いつ導入するのかを議論する段階」と,導入への方向性を強く打ち出す形で議論を締めくくった。

 同研究会で推進の立場から発言したのは,斉藤名誉教授,会津泉アジアネットワーク研究代表,三友仁志・早稲田大学国際情報通信研究科教授など。一方,NTTドコモ,KDDI,ツーカーセルラー東京,ボーダフォンなど携帯電話事業者は,MNP導入に慎重な発言が目立った。
 
 今回主に議論になったのは,(1)導入時の設備コストの算定額の根拠,(2)MNPとプライバシー問題との関係――など。(1)の設備コストは,この研究会と平行して進められている「携帯電話の番号ポータリビリティに関する勉強会」による見積もりで,900億~1500億円という数字が提出された。

 会津代表はこの数字について,「欧米では約100分の1のコストでMNPを導入している。日本はなぜこんなに高いのか」と指摘。これに対して,携帯電話事業者側が明確に説明できなかったため,導入コストの見積もりは次回に向け一からやり直す格好となった。

 (2)のプライバシー問題とは,番号ポータビリティが実現すれば,その電話番号は「個人ID」としての役割を持つようになり,本人確認のほか,クレジットカードの利用履歴などと結び付けられて使われるようになる可能性があることだ。

 全国消費者団体連絡会事務局の石渡戸真由美氏は,「MNPの導入は,プライバシー問題をどうするかなど,将来の使われ方も含めた全体的な青写真を議論してからにすべき」と,現時点ではMNPに否定的な姿勢。11月にMNPが実現したばかりで,「番号ポータビリティはユーザーの当然の権利」(携帯電話事業者の業界団体CTIA)という主張が目立つ米国とは受け止められ方が違うようだ。

 ただ,全体としては議論に目新しい論点は出なかった。NTTドコモやツーカーは,「ユーザーの不満解消には,まず番号案内サービスの導入が有効」(ツーカーセルラー東京の松下英明・取締役管理本部長)と従来の主張を繰り返した。一方,斉藤名誉教授など推進派の論拠は,「海外がやっているから」。日本でのユーザーや事業者のメリットを具体的に示す議論は見られなかった。

 最後は斉藤名誉教授による前向きな方向付けで終わったが,事業者側の同意は得られていない状態。ユーザーからの明確な要求がない一方で,事業者がMNPを「意味のあるコスト負担かどうか不明」(NTTドコモ)と見ている状況では,MNP実現への道は遠そうだ。

(野沢 哲生=日経コミュニケーション)