米インテルは,同社が開発した技術を市場に浸透させるため,政策面でも活発に動いている。例えば,無線LANで利用できる周波数帯の拡大を米連邦通信委員会(FCC)などに呼びかけている。政府機関との交渉の最前線に立つピーター・ピッチ通信政策担当ディレクタに話を聞いた。同氏はインテル入社前にFCCに所属し,計画・政策室室長などを歴任した。FCC委員長の首席補佐官を務めた経験もある。
--米国における通信への規制の状況について教えて欲しい。
米連邦通信委員会(FCC)が決める通信政策は,米国の企業や市場に大きな影響力を持っている。無線周波数帯域に関しては,300Mから3GHzの帯域は免許でがんじがらめになっている。FCCはこの周波数帯域を,「コマンド&コントロール(C&C)」が必要な価値の高い帯域と位置付けているからだ。このままでは問題だ。旧来の技術やそのアプリケーションが,これらの帯域を支配してしまうからだ。
--インテルはどのような規制緩和を望んでいるのか。
まず無線LANに力を入れている。免許を取得せず自由に使えることを支持している。現時点で,2.4Gと5GHzが自由に使える帯域だが,これ以外にも新たな帯域を開放するよう,FCCの規制担当者に求めている。
規制がなく自由に使えるメリットは極めて大きい。企業にとっては市場への製品投入を早めることができ,ユーザーにとってはよりよい製品を手頃な価格で入手し活用できるからだ。
これは2.4GHz帯における無線LANの発展状況をみれば明らかだ。当初は,赤ちゃんを監視するモニター装置やガレージの開閉ぐらいしか想定していなかった。“ジャンクバンド”と言って,ゴミのような周波数帯とまで呼ばれていたくらいだ。
--米国では州政府がVoIP(voice over IP)やIP電話の事業者に対して,固定電話と同様の免許を取得し,税金を支払ったり緊急通報を実現するように求めている。
VoIP(voice over IP)に関して,インテルのスタンスは決まっている。当然,規制をかけるべきではない。
VoIPの規制議論は,二つに分けて考える必要がある。一つが社会的な側面である。例えば,緊急通報の「911番」への通話の確保や,捜査当局による監視や盗聴などだ。これらの点は我々も含めて反対する会社はいないと思う。そもそも規制しなくても,業界が自らが取り組むだろう。
もう一つが接続料を巡るものである。米国には固定電話のユニバーサル・サービス基金制度がある。どんな場所に住んでいても,電話のサービスが受けられることを保証するものだ。ただユニバーサル・サービス基金は,固定電話を想定した制度である。これをVoIPに適用しようとするのは無理がある。
--VoIPやIP電話事業者は,ユニバーサル・サービス基金を負担する必要はないのか。
VoIPになったからといって,ユニバーサル・サービス基金を無視し助成金を支払わなくていいと言っているわけではない。現状の固定電話では,1分間当たりいくらという形で接続料を課金している。そしてそのうち何%かを基金に出すというものだ。
この"時間当たり"の概念を,CATVやDSL(digital subscriber line)などインターネット常時接続サービスの上で使うVoIPに適用するのはいかがなものか。VoIPの回線や電話番号を課金の単位にするのが妥当ではないか。
--連邦政府の機関であるFCCと,各州政府の規制に関する政策が異なったらどうなるのか。
私の個人的な考えでは,FCCがVoIPへの規制をしないという態度を表明すると思っている。これに州政府が反対しても,FCCによる連邦政府レベルでの決定を覆すことはできないのではないか。ミネソタ州では地方裁判所がIP電話を規制しようとする州政府ではなく,IP電話事業者のヴォネージュの考えを支持する結論を出している。
(聞き手は市嶋 洋平=日経コミュニケーション)