情報通信技術委員会(TTC)のスペクトル管理サブワーキング・グループ(SWG)は12月5日,第6回会合を開催した。議題の中心はADSL(asymmetric digital subscriber line)の上り(ユーザーからNTT局方向)速度を高速化する技術について。ADSL事業者やチップ・メーカーで激論が交わされた結果,TTCは上り高速化技術の承認を一時中断。今後の取り扱いについては,新たに設置する専門グループにおいて事業者間で個別協議することになった。

 上りを高速化したサービスは,ソフトバンクBB(SBB)とアッカ・ネットワークスが計画中。上りに使う帯域を広げ,最大3Mビット/秒の伝送を実現する。上り帯域を広げると下り(NTT局からユーザー方向)の伝送に使う帯域と重なるため,干渉が起こる恐れがある。

 SBBとアッカの両社は,上り3Mビット/秒のサービスで米グローブスパンビラータのチップを採用する。グローブスパンは,11月21日の第5回会合で独自方式「EU-G」を提案。同技術は,11月28日に改定されたスペクトル管理基準「JJ-100.01」の第2版に準拠しているとして追加された。スペクトル管理標準とは,複数の変復調技術を使った回線が太束ケーブル内で共存するためのルールで,承認を受けた技術は「スペクトル管理適合性確認報告書」に記載される。チップ・メーカーの米センティリアム・コミュニケーションズも内容は異なるが,同様の高速化技術を提案している。

 ところが同会合で,長野県協同電算(JANIS)が「グローブスパンやセンティリアムの方式では他回線への干渉の影響が大きい」ことを裏付ける実験結果を提出。上り高速化技術を使ったサービスが始まれば,ADSLのスループットを十分に確保できなくなると主張した。議論はJJ-100.01自体にもおよび,「そもそも第2版で採用した計算モデルが不適切だ」(JANIS)とした。

 激論の末,承認済みの上り高速化技術には,スペクトル管理適合性確認報告書に“TTCで議論中”という注意書きが付くことになった。その上で,上り高速化技術を議論する専門グループを新たに設置して,2004年1月29日に開催される次回SWG会合までに取り扱いを協議する。事業者間の合意が得られ,サービスが可能という結論が下れば注意書きを外す。

 東西NTTは,スペクトル管理基準を基にADSLの相互接続に応じている。しかし,「“TTCで議論中”といった記載がある技術は,事実上TTCでまだ同意が得られていないことになる。接続には応じられない」(NTT東日本)とした。

 ソフトバンクBBは,2004年1月中に上り方向を高速化したサービスを計画していた。次回のTTC会合までに事業者間の合意が取り付けられなければ,予定通りのサービス開始が難しくなりそうだ。

(閑歳 孝子=日経コミュニケーション)