米国の通信・放送政策の策定機関である米国連邦通信委員会(FCC)は米国時間の11月20日,全米の地域電話事業者約800社などで構成する業界団体「USTA」(United States Telecom Association)などが18日に送った「番号ポータビリティ」の開始延期要求を却下した。

 米国では現在,FCCが11月10日に発表した「固定電話事業者は11月24日までに,固定電話の電話番号をユーザーの要求に応じて携帯電話側に渡せるようにしなければならない」という決定を巡って,FCCと固定電話,携帯電話事業者の間で三つ巴の激しい論戦が起こっている。

 理由は,家庭で使っている電話の電話番号をそのまま携帯電話でも利用できるようになれば,番号の変更が嫌で携帯電話を避けていたユーザーが大挙して固定電話を解約し,携帯電話に乗り換える可能性があるためだ。調査会社の米アーンスト&ヤングは11月12日,「FCCの決定が実行されれば,米国の半数近くの世帯が固定電話を解約して携帯に乗り換える」ことを示すアンケート結果を公表した。

 加えて,FCCの規定する番号ポータビリティには,固定電話から携帯電話の場合と,携帯電話から固定電話への場合で条件が違っていることも固定電話事業者の態度を硬化させている。固定から携帯へはユーザーの要求に無条件に対応しなければならないのに対し,携帯から固定の場合,当初契約した地域から移動したユーザーは,技術的に番号を固定電話に移動できないからだ。

 このため,FCCの発令は固定電話事業者各社から猛反発をかっている。固定電話の大手事業者である米クエスト・コミュニケーションズ・インターナショナルのゲイリー・リトル法務担当副社長は11月10日,「今回の措置は,携帯から固定電話へ切り替えたい数百万のユーザーを置き去りにする」として,命令が延期されなければ法的措置も辞さない姿勢を明らかにした。また,USTAのウォルター・マコーミック社長兼CEOも11月18日,「政府による最悪の規制」「FCCは固定から携帯への一方通行を導くオマワリになった」などと激しい言葉を使ってFCCの決定を批判。11月20日までに決定の施行延期を発表することを要求した。「FCCが応じないなら,裁判に訴える」(USTA)。

 一方,携帯電話事業者で構成する業界団体のCTIA(the Cellular Telecommunications & Internet Association)は,FCCの決定に大はしゃぎ。エンドユーザーに向けた「固定から携帯への電話番号の切り替え方」を説明するWebページを用意して,携帯電話への切り替えを促している。
 
 FCCは11月20日に「USTAらの主張には十分な説得力がない」として,施行延期要求を却下した。これに対し,USTAなど固定電話事業者側は,FCCを提訴する方針を固めた模様だ。

 法廷闘争の行方は未知数だが,期限は週明けの月曜日に迫っている。FCCの決定が予定通り実行されれば,米国の通信業界は,固定から携帯へのユーザーの大移動が起こるなど,激動の時代を迎えそうだ。

(野沢 哲生=日経コミュニケーション)