8月7日,昨夏から中断していたDSL(digital subscriber line)のスペクトル管理標準「JJ-100.01」改訂版の標準化が合意に至った。スペクトル管理標準とは,DSLサービスの回線同士がメタル回線の中で共存するためのルール。国内では標準化団体,情報通信技術委員会(TTC)がスペクトル管理のサブワーキング・グループ(SWG)を設置し策定している。

 JJ-100.01の改訂版では,初版に掲載されていない新しいDSL技術を盛り込んだ。例えば,12メガと24メガのADSL,長距離向けのReachDSLなど。注目は今回の改訂版に盛り込まれることになった下り伝送速度の理論値が最大50Mビット/秒のADSL。“50メガADSL”は下り伝送の帯域を一気に3.75MHzまで拡大することで実現する。8メガや12メガADSLの約4倍まで帯域を拡大することから,「クワッドスペクトル方式」と呼ばれる。

 今回,ADSL事業者やチップ・メーカーの思惑が交錯,激しい議論が交わされた。朝の9時半から夜の9時過ぎまで12時間近くかかったSWG会合の大半の時間は,クワッドスペクトル方式の議論に費やされた。

 クワッドスペクトル方式は,ADSL事業者のイー・アクセス,ADSLチップ・メーカーのセンティリアム・ジャパンが主体となって提案。これに,ADSL事業者のソフトバンクBB,ADSLチップ・メーカーの米グローブスパン・ビラータとSTマイクロ・エレクトロニクス,米ブロードコムが反対意見を展開する格好となった。

 クワッドスペクトル方式は,VDSL(very-high-bit-rate DSL)との干渉を十分に考慮していない,というのが反対側の意見。両技術は3.75MHzという高帯域まで伝送信号が重なる。最終的には,SWGの池田佳和リーダーが「クワッドスペクトル方式とVDSLなど信号の伝送帯域1.1MHz以上のDSL技術同士の干渉計算に関しては今後の検討課題」とし,議論が収束。クワッドスペクトル方式自体はTTCで標準化されたことになった。G.992.1をベースにした方式が盛り込まれた。

 「JJ-100.01」の改訂版は本来2002年の夏に決まっていたはずのもの。2002年8月にBBテクノロジー(現ソフトバンクBB)がTTCに動議を提出して以来,標準化作業がストップしていた。その後総務省のDSL作業班に舞台が移されていた。TTCはこの事態を収集すべくスペクトル管理の新たなSWGを設置。同SWGは7月3日に第1回を開催。今回の第3回で,JJ-100.01の改訂版が決定した。1年という“長期ブランク”を取り戻すため,異例の速さで議論が進められた格好だ。今後,TTCの標準化会議で電子投票を実施。承認されれば11月末にも,「JJ-100.01第2版」として正式なTTC標準となる。