オフィスや家庭での通信手段として欠かせない加入電話。この最も基本的な通信サービスを提供するNTT東日本は,「東京電力から安全宣言が出るまでは予断を許さない状況だ」(田中啓行サービス運用部災害対策室担当部長)と現状を分析する(写真上)。

 東京電力は,7月13日に福島第一原子力発電所6号機(出力110万kW)を再稼働させたものの,まだ最大需要予測6450万kWに対し,300万kW程度の供給力を増やす必要がある見込み。NTT東日本は,電力需要のピークは梅雨明けと予測。さらに,「東京電力は運転を終える予定だった火力発電所を動かしている。これが故障しかねない」(NTT東日本の田中担当部長)と不安要因はなくならない。

 NTT東日本はこの問題に対処するため,停電対策を通常時よりも強化している。停電が起こっても,加入電話や専用線など各種固定通信サービスを10時間程度までは確実に提供できることを,6月末までに点検したのだ。さらに,主要設備にある自家用発電機(写真中)の燃料を満タンにした上,燃料と発電機を冷やす冷却水の補給体制を整えた。

 NTT東日本の具体的な停電対策の仕組みは次のようになる。

 銅線や光ファイバを経由してユーザー宅を収容する加入者交換局や,複数の加入者交換局を束ねる区域内中継局に,無停電電源装置(UPS:写真下)と発電機を装備。停電が起こると,UPSが局内の通信装置に電力を供給し始める。発電機は始動から約5分で安定稼働状態になるので,この時点でUPSから発電機に切り替える。

 UPSや発電機が作る電力は,NTT東日本が提供するすべての通信サービスに一律に供給される。つまり,「加入電話や専用線,ADSL(asymmetric digital subscriber line),FTTH(fiber to the home)などサービスの種類によって,止まったり止まらなかったりすることはない」(田中担当部長)。

 ただし,NTT東日本の抱える局施設は数千の単位になる。このため,一部の施設は発電機を持たない。こうした拠点には約10時間持つ大型バッテリーを設置してある。

 しかも,停電は局所的に起こる可能性が高い。「発電機を搭載した車両が約40台ある。これを活用すれば発電機のない拠点もカバーできる」(田中担当部長)見通しである。

 つまりNTT東日本が提供する固定通信サービスに関しては,停電が数日間に及ばない限り,サービス提供が止まる可能性はほとんどない。課題があるのは,サービスではなく端末の方だ。

 例えば,電話機は大半の製品が電話回線からの給電によって通話だけは維持できる。しかし,FAXやLモードなどの機能は使えなくなる。公衆電話に関しては,硬貨やICカードは使えるが,テレフォンカードは利用できない。