2003年4月以降,固定電話を対象にしたIP電話サービスが相次いで始まっているが,モバイル端末から街角の無線LAN基地局などを通してIP電話サービスを提供するサービスの開始は,早くても2004年春以降になりそうだ。大幅に遅れる理由は,「050」で始まるIP電話サービス向けの電話番号の取得の遅れ,無線基地局の品質の見直し,基地局を設置する代理店の獲得の難航――など。

 首都圏でPHSサービス事業を提供するYOZANは,7月1日にサービス開始予定だった準定額データ通信サービス「ワイヤレスIPサービス」の開始を2004年4月以降に延期した。2003年2月に,このサービスを専門に手がけるための子会社「YOZAN IPネットワークス」を設立したばかりだった。延期の理由は「10万局ある既存のPHS基地局では高品質なサービス提供ができない可能性があった」(YOZAN)ため。

 YOZANは2004年3月末をめどに,64kビット/秒の接続環境をより広域で提供できるように人口集中地域を中心にPHS基地局を増強する予定である。このため,サービス開始は早くても2004年4月以降となる。YOZANがこのデータ通信サービスの次に開始する予定だったIP電話サービスの開始も,来春以降にずれ込む見通しである。

 ベンチャーのブロードバンドモバイルコミュニケーションズ(BMC)は,専用の固定型IP電話端末を使うIP電話サービス「BC PHONEサービス」を4月に開始した。一方で,BMCは2002年11月時点で,「定額3000円でかけ放題」の携帯IP電話サービス「M’Tel」(モッテル)を2003年春に開始するとしていたが,現時点でまだサービスを始めていない。

 BMCは2002年11月に,ファミリーマートなどコンビニエンス・ストア5社の事業支援を手がけるイープラット(e-plat)と,携帯IP電話サービスの共同実験をすると発表もしている。ところがe-platは,7月7日の時点で「まだ実験は一切始まっていない。事実上の立ち消えになった」と言明。これに対しBMCは,「確かに実験開始は遅れているがやめてしまったつもりはない」と反論。「サービス開始が遅れているのは,サービス品質をできるだけ高めたいから」(BMC)と説明する。

 三菱電機系のベンチャーであるアイピートークは,専用のVoIP(voice over IP)携帯端末を開発し,2003年10月以降に企業向けにサービスを開始する。以前は公衆向けサービスも想定していたが,現在は白紙だと言う。「自力でインフラを用意する形の公衆向けサービスは考えていない。もし公衆向けサービスに関わるとすれば,通信事業者(キャリア)の無線LANアクセス・サービスなどで我々のVoIP携帯電話端末が採用された場合」(アイピートーク)。公衆向けのIP電話サービスは,インフラだけでなく,050番号の取得や加入電話網への接続など,ベンチャーにとっては敷居が高いようだ。

(野沢 哲生=日経コミュニケーション)