ソフトバンクBBは4月21日,ADSL(asymmetric digital subscriber line)事業者のイー・アクセスの最高技術責任者(CTO)を相手取って起こしていた裁判を取り下げた。ソフトバンクBB(当時はビー・ビー・テクノロジー)は2002年8月27日に,イー・アクセスの小畑至弘CTO個人を訴えていた。

 ソフトバンクBBの提訴は,ADSLの国内標準を策定していた情報通信技術委員会(TTC)に端を発する。小畑氏はTTCのADSLに関する作業部会のリーダーであったが,ソフトバンクBBが採用する最大12Mビット/秒のADSL技術「G.992.1 Annex A」に対し,(1)ISDNからの影響を受け速度が出ない,(2)同技術のフルオーバーラップ方式は他のADSLに干渉を与える--と発言したと,ソフトバンクBBは主張。「TTCのリーダーの立場を利用して,競争事業者であるソフトバンクBBのADSLユーザー獲得に大きな影響を及ぼした」として損害賠償を請求していた。

 ところが4月に入るとソフトバンクBB側から小畑氏側に和解をしたいと申し出があり,いくつかの条件が提示された。ただし小畑氏側はこの和解案を拒否したという。これを受けた4月21日には,ソフトバンクBBが訴えを突然取り下げた。翌22日に小畑氏側が取り下げに同意し,裁判が終結した。

 ソフトバンクBB側は今回の取り下げの理由を「獲得できたユーザー数を見る限り,12メガ・サービスが他のADSLよりも劣るという誤解が解けた」(ソフトバンク広報室)と説明する。一方の小畑氏側は「訴えが取り下げられたことで,ソフトバンクBBが小畑氏の主張を認めたと思っている」(城山康文弁護士)としている。

 ソフトバンクBBが訴えを取り下げたことで,ADSLサービスの今後に影を落としていた一つの要因が取り除かれたことになる。TTCで話し合われていたADSLの国内標準はソフトバンクBBによる小畑氏の提訴やTTCへの動議によって議論が止まり,舞台をTTCから総務省のDSL作業班に移していた。

 DSL作業班にはソフトバンクBBなどADSL事業者やADSL技術のメーカーが出席し,小畑氏はイー・アクセスの代表として出席している。小畑氏だけでなく,他のメンバーは裁判が進行中であることから,「技術的に正しいと思っても,自由に発言ができないことがある」(作業部会の参加者)という状態だった。

 DSL作業班は4月22日の会合で最終報告案がまとめられる見込み。ただし細かな論点に関しては詰めきれていない。その後はTTCに戻され議論が進められる。その際に裁判という“重し”がなくなったことで,自由な意見を交換できる下地ができたと言える。