NTTは10月8日,衛星通信(CS)を使って,どの地球局からでも他の地球局にデータを同報配信できるマルチキャスト配信システムを開発したと発表した。従来の衛星マルチキャスト・システムは,「センター・ハブ」と呼ぶ設備から全国の地球局にデータを配信するという「1対多」の配信しかできなかったが,今回のシステムでは「多対多」の配信を同時に実行できる。NTTのサービスインテグレーション基礎研究所が開発した。

 CSを使った多対多の同時通信に実現するため,研究所は,「グループ変復調装置」と呼ぶ装置を新たに開発した。CSの中継器(トランスポンダ)に割り当てられた周波数帯域を分割利用して,最大256波を同時に変復調したり,最大32地点からのIPデータを同時受信する機能を備える。この変復調装置を備えた地球局同士ならば,互いに連携してトランスポンダの帯域を分割利用することで,多対多の同報配信を実行できる。トランスポンダの空き周波数帯が不連続に存在しても,これを集めて一つの通信回線として有効利用できる「分散収容技術」も世界で初めて実現したという。変調装置の最大伝送速度は,30Mビット/秒である。

 ADSL(asymmetric digital subscriber line)などのブロードバンド回線の普及で,動画などの大容量データを安価に配信する手段が整備されつつある。ただし回線が未整備の地方の拠点を抱えていたり,配信先拠点が多数に上る時など,衛星マルチキャストが有効な局面は存在する。NTTでは今後の市場動向を見ながら,今回のシステムの実用化を検討していく考え。

(玄 忠雄=日経コミュニケーション)