総務省は7月31日,今回で5回めとなる「電力線搬送通信設備に関する研究会」を開催し,高速な電力線通信(PLC)の規制緩和に関する最終報告を出した。結論は,現在のPLCモデムや電力線の状況では,数メガ・ビット/秒以上の高速なPLCの利用に必要な周波数の商用利用への開放は困難,ただし実験目的ではケースバイケースの判断になる――という内容となっている。

 総務省は,研究会の報告を高速PLCに対する事実上の結論とする姿勢をとっている。このため,政府が2001年3月に発表した「e-Japan重点計画」に端を発する高速PLCの商用利用に対する規制緩和の動きは,実験に道を開いただけで決着することになった。

 高速PLCは,宅内や架線の電力線/電灯線に周波数が1.7M~30MHzの搬送波を流して,数メガ~数十メガ・ビット/秒の通信速度でのインターネット接続サービスやLANを実現する技術。欧米を中心に技術開発が進み,ドイツの一部地域ではインターネット接続サービスも始まっている。住友電気工業は3月に,上り(ユーザー宅から局舎方向)18Mビット/秒,下り27Mビット/秒の高速モデムを開発するなど,日本での製品開発も活発になってきている。

 一方,1.7M~30MHzの電波は,短波放送,アマチュア無線,航空管制業務,船舶の通信,電波天文学など各種の目的で既に利用されている。今回の規制緩和の動きに対してそれぞれの立場から,PLCモデムが出す漏えい電波による電波干渉への懸念が出されていた。今回の同研究会は,関係者の関心の高さを反映し,約80の傍聴席がほぼ埋まった。

 商用利用は困難という結論について,同研究会は,PLCモデムの漏えい電波が「航空管制や短波放送などの無線通信に対する有害な混信源となり得る」ことを挙げた。同研究会が6月~7月に実施した実験では,「多数のケースで微弱無線局の許容値の数十倍の値」となったという。

 ただ,モデム製品によって測定値に大きなばらつきがあることや,実験の方法,精度などに不十分な点があることから,「今後の技術開発の余地が大きい」(研究会座長の杉浦 行・東北大学教授)とし,これまで電波法上出来なかったフィールド実験を,個別許可という形ながら可能にした。

(野沢 哲生=日経コミュニケーション)