ソフトバンクの孫正義社長は7月16日,グループ会社のBBテクノロジーが提供する高速ADSL(asymmetric digital subscriber line)サービス「Yahoo! BB 12M」発表会の席で,イー・アクセスがYahoo! BB 12Mに関する苦情を総務省に提出したことに反論した。「あたかもYahoo! BBがルール違反を犯したような言い方をされ,非常に遺憾。これは営業妨害だ」(孫社長)と声を荒らげた。

 問題になったのは,Yahoo! BB 12Mで使う技術「Annex A.ex」。同技術は,国際電気通信連合の電気通信標準化部門(ITU-T)が定めた国際標準規格「G.992.1 Annex A」をベースにしている。通常は上り(ユーザーからNTT局舎方向)専用の26k~138kHzの周波数帯域を下り通信にも使い,通信速度の高速化やNTT局から遠いユーザーの収容を実現する。ただし,上りの周波数帯で下り信号を送ると,他のADSL回線の上り信号に影響を及ぼす恐れがある。

 こうした複数の技術が干渉して速度が低下するのを回避するため,国内の標準化団体である情報通信技術委員会(TTC)のスペクトル(周波数分布)の標準を検討する委員会では,複数のADSL事業者がスペクトル管理のルールを作成中だった。しかし,BBテクノロジーはAnnex A.exをサービス開始直前の7月10日までTTCに提案しなかった。そのうえ,TTCで議論を始める以前の3月から,内密に愛知県大口町でフィールド実験を始めていた。イー・アクセスが苦情を提出したのは,こうした経緯があったからだ。

 これに対し孫社長は,「TTCにフィールド・テストを提案する義務があるとは認識していない」と強調。その根拠として,8Mビット/秒のサービスを始めた時点で,NTT東西地域会社にスペクトルを提出していたことを挙げた。「Anncex A.exの技術は,この範囲内あるため,新たにTTCに提案する必要はないと判断した」(BBテクノロジーの宮川潤一社長室長)。イー・アクセスの抗議について孫社長は,「異論があるようならITU-Tに抗議すべき」と述べ,ソフトバンク・グループが16日付けで,総務省に営業妨害に当たるとして抗議文書を提出したことも明らかにした。

 Annex A.exを使うことによる他社サービス利用者への影響については,「確かに影響が出る場合がある」としながらも,「実証実験した回線自体の上りデータにも影響は出ていない。他社サービスを使う回線は,これよりも遠い場所に位置するため影響は少ない」(孫社長)と説明した。ただし今後,他社サービスの回線に影響が認められれば,BBテクノロジー側でユーザー宅内に設置したYahoo! BBのADSLモデムを操作。通信方式をAnnex AやAnnex Cに切り替え,影響が出ないようにするという。

(閑歳 孝子=日経コミュニケーション)