総務省は6月11日,他社設備を使って携帯電話やPHSサービスを提供するMVNO(移動仮想通信事業者)のためのガイドラインを公表,運用を始めた。電気通信事業法や電波法をMVNOにどう適用するかを明確化し,MVNOの市場参入を促すのが,総務省の狙いである。

 ガイドラインの名称は,「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」(MVNOガイドライン)。総務省は,2002年4月12日に原案を公開し,5月10日まで意見を公募していた。

 ガイドラインでは,「無線基地局を保有せず,第一種電気通信事業者の移動通信サービスを利用して,サービスを提供する移動通信事業者をMVNO」と定義。さらに,国際サービスや公専公接続による通話サービスを提供するMVNOは特別第二種電気通信事業者,それ以外のMVNOは一般第二種電気通信事業者と分類している。前者は,総務大臣から事業登録許可を受ける必要がある。後者は,届け出だけで済む。

 NTTドコモやKDDIなど移動通信サービスを手がける第一種電気通信事業者とMVNOとの契約形態は,二つに大別される。(1)卸電気通信役務,(2)契約約款に基づく電気通信役務--である。

 (1)は,一種事業者とMVNOとの個別契約を指す。一種事業者は,MVNOと契約内容について協議する義務はあるが,必ずしも契約を結ばなくてよい。ただし,協議結果に不満がある場合,MVNOは総務大臣や電気通信事業紛争処理委員会に裁定や仲裁を依頼できる。

 一方,(2)は,一種事業者が一般ユーザー向けに提供している料金で,MVNOと契約を結ぶことを意味する。この場合,一種事業者はMVNOにサービスを提供する義務があり,MVNOの申し出を拒否することはできない。

 さらにガイドラインは,既存の一種事業者もMVNOとして移動通信サービスを提供してよいと明記している。このように不明確だった法制度を整理することで,市場参入を躊躇していた事業者の背中を押す効果はありそうだ。

 しかし,MVNOが魅力的なサービスを実現できるかどうかは,移動通信事業者から良い契約条件を引き出せるかに大きく依存する。半面,移動通信事業者に無理な条件を強いては,長期的には市場全体に悪影響を及ぼしかねない。移動通信事業者とMVNOとの調停役を果たす総務省の責任は,ガイドライン作成後も依然として大きい。

(杉山 泰一=日経コミュニケーション)