産経新聞社は4月4日,新聞紙面をそのままのレイアウトで高速インターネットを使って配信するサービス「新聞まるごと“電子配達”」を8月をめどに開始すると発表した(写真)。5月中にも,一部地域において無料で試験配信を開始する。大手新聞社が新聞紙面をインターネットを使って配信するのは,国内では初の試みとなる。

 電子配達サービスで提供するのは,産経新聞の東京最終版の朝刊と夕刊,および夕刊フジ。それぞれ「産経新聞デジタル版」,「夕刊フジデジタル版」という商品名になる。配信時間は朝刊が午前5時,夕刊は午後4時である。現時点では本サービス開始時の購読料は決まっていないが,「月極めの定額課金とページ単位での課金の両方を用意する可能性が高い」(産経新聞社の稲田幸男デジタルメディア本部長)。

 サービス・システムは,情報通信機器/ソフトを開発・提供するサピエンスと共同開発し,「ニュースビュウ」と名付けた。同システムではまず,新聞紙面上の情報すべてをそのままイメージ・データにし,これを独自方式で圧縮する。その後,インターネット経由で,産経新聞社と提携したインターネット接続事業者(プロバイダ)のWebサーバーへ送信する。ユーザーは,このプロバイダのWebサーバーにアクセスし,専用ビューワ・ソフトを使って新聞を読む。

 専用ビューワには,記事の拡大縮小機能はもちろん,1面表示と見開き表示の切り替え機能,目次や注釈などから関連記事へのジャンプ機能,テレビ番組欄や広告から関連Webサイトへのハイパーリンク機能がある。また,「朝刊1部あたりのデータ量は30Mバイト程度になるため,ブロードバンド回線でもダウンロードに10分以上かかることもある」(産経新聞社の小林静雄デジタルメディア本部副本部長)。このため,パソコンに全データをダウンロードするのではなく,必要なページだけを読み込めるようにした。

 ただし,不正コピー防止や著作権保護,既存の新聞販売店の収益保護などの観点から,本サービス開始時点では提供地域を制限する。産経新聞デジタル版は近畿圏の一部地域,夕刊フジデジタル版は首都圏と近畿圏では販売しない。具体的には,コンテンツ配信事業者であるアットホームジャパンまたはAIIと提携しているCATV事業者のインターネット・ユーザーか,FTTHサービス事業者である有線ブロードネットワークスのユーザーであり,かつ上記地域以外に住むユーザーだけが電子配達サービスを利用できる。

 また,同様の観点から,各プロバイダのWebサーバー上に保存される新聞データは2日で更新する。ただし,ユーザーがパソコンにダウンロードしたファイルについては,コピーガードはかけない意向。「コピーガードをかける仕組みも用意したが,データ量が大きいので手軽にはコピーできないだろうし,紙の新聞でも数名で回し読みすることはある」(産経新聞社の宮野弘之デジタルメディア本部部次長)。

 産経新聞社とサピエンスは既に,新聞紙面のデータ圧縮から配信・課金までの一連のシステムに対するビジネス特許を出願している。産経新聞社の蓮池曜社長は「他の新聞社や雑誌社の参加も歓迎する。また,紙面をイメージ・データとして扱うため,取り込む紙面の言語の違いは気にせずに済み,グローバルな展開がしやすい」という(写真)。この電子新聞が紙の新聞を超えることはないとしながらも,電子新聞事業を機にビジネス領域を一気に拡大したい考えである。

(杉山 泰一=日経コミュニケーション)