KDDIは2月22日,移動体向け高速データ通信システム「HDR」(high data rate)のフィールド実験結果を公開した(写真)。HDRは米クアルコムがcdmaOneやcdma2000などの携帯電話向けに開発したパケット通信システム。cdmaOneなどの基地局に「アクセス・ポイント」(AP)と呼ぶHDR用の機器を追加することで,下り(基地局から端末方向)平均600kビット/秒,最大2.4Mビット/秒のデータ伝送を可能にする。

 今回の実験でKDDIは,「HDRはフィールドにおいても,平均600kビット/秒を上回るスループットが得られることを確認できた」(渡辺文夫・移動体技術本部技術開発部長)との結果を発表。NTTドコモが2001年5月末に開始するIMT-2000サービス「FOMA」への対抗軸として位置付けている。冲中秀夫・移動体戦略本部移動体事業企画部技術戦略グループリーダーは「2002年中には何とか商用サービス化を図りたい。携帯電話型,PCカード型,PDA(携帯情報端末)型などの端末の提供を検討している」との意気込みを語った。HDRを導入した場合のパケット料金については,「相当下げなければ,モバイル・インターネットは普及しない。定額制や準定額制などを視野に入れ,先駆的な値段付けを検討している」(伊藤泰彦・移動体事業統括本部移動体技術本部副本部長)との考えを示した。

 KDDIは2000年7月末から,東京都内のcdmaOne基地局(六番町局と半蔵門局の2局)と,32台のHDR端末を使ってフィールド実験を実施してきた。ビルが多い東京の街中で,静止状態や歩行時,自動車を使った走行状態などでのHDRの基本性能を評価するのが目的。今回の実験では,静止・歩行・走行状態のいずれにおいても,「平均600kビット/秒を上回り,ほぼ1.2Mビット/秒のセクター・スループットが得られた。また,瞬間的に2.4Mビット/秒のスループットが得られることも確認できた」(渡辺部長)という。セクター・スループットとは,1セクター(1基地局のカバー・エリアを扇形に分割したもの。KDDIの場合,1基地局で3セクター)当たりのシステム収容能力。仮に,1セクター内に10ユーザーが存在した場合,1ユーザー当たりのスループットは120kビット/秒になる。

 KDDIは今後もHDRのフィールド実験を継続する。高速走行時のデータ通信性能の検証をはじめ,利用エリアを広げたり端末台数を増やすなど,より実際の環境に近い状態でのデータを検証するのが目的だ。実験は今後1年間継続するが,「今年の夏までにはほぼ完了させて,商用化を早めたい」(渡辺部長)。既にKDDIは2000年12月にHDRの実験システムを東京都府中市の3基地局に設置済み。今年3月末には合計8基地局にHDR設備を設置する計画である。六番町局および半蔵門局のHDR設備は撤収し,今後は実験の中心を府中市近辺に移す。

 HDRは2000年10月に,cdmaOneをベースとしたIMT-2000の仕様策定に関わる標準化団体3GPP2(third generation partnership project 2)において,1xの拡張規格「1xEV-DO」(1x evolution-data only)として仕様が固められた。現在KDDIが実験しているHDRシステムは3GPP2における仕様が固まる前のものであり,仕様が異なっている。「実験するなかで改良すべきポイントも見えてきた。これらの結果は3GPP2にフィードバックしている。1xEV-DOベースのシステムになれば,スループットは間違いなく現在より向上する」(渡辺部長)と見ている。

(川崎 慎介=日経コミュニケーション)