NECは1月30日,VDSL(very high bit rate digital subscriber line)技術を利用した高速通信システムを製品化したと発表した。出荷は3月。第一号ユーザーは京王プラザホテルで,同システムを使って客室からの無料インターネット接続サービスを4月から提供する。VDSLは既存の電話用銅線ケーブルを使って最大10Mビット/秒伝送を実現する技術。

 NECが製品化したのは,センター側に設置するVDSLコンセントレータの「DATAX VC200T」(写真の左)と「同F」,ユーザー側に設置するVDSLモデムの「DATAX VTU EB」(写真の右)および電話信号とVDSL信号を分離するスプリッタの「VPORTSRJ-1A」。「DATAX VC200T」と「同F」は,外部接続インタフェースが異なり,前者が100BASE-TX,後者が100BASE-FXである。

 NECは,このVDSLを使ったシステムを,ホテル,オフィス・ビル,マンションなどがインターネット接続環境を整える際の構内インフラ用途に売り込む。1台のDATAX VC200T/Fで収容できるVDSL回線数は最大20回線。これを最大5台連結して合計100回線のインターネット接続環境の構築が可能。システムの価格は明らかにしていないが,「量産効果が上がればADSLモデムと同等の価格にできる」(NEC)。NECは,通信事業者へのOEM(相手先ブランドによる生産)供給なども含めて,今後3年間で200億円の売り上げを見込む。

 第一号ユーザーである京王プラザホテルは,客室からの高速インターネット接続サービスで,最近増えている海外のIT関連企業からの宿泊客のニーズにこたえる。宿泊客は,ノート・パソコンとLANカード,LANケーブルを持参するだけで,客室からインターネットへの常時接続サービスを利用できる。エグゼクティブ室にはVDSLモデムを常設。他の客室もユーザーの要望によりVDSLモデムを貸し出す。インターネット接続のための特別な料金は徴収しない。「都市ホテルで宿泊客に対して高速インターネット接続サービスを24時間・無料で提供するのは国内で初めて」(京王プラザホテル)だという。

 サービス開始当初の回線環境は,ホテル館内が最大10Mビット/秒,京王プラザホテルとインターネット接続事業者(プロバイダ)との間は最大3Mビット/秒。トラフィックの増加を見ながら,プロバイダとの間の回線を6Mビット/秒,10Mビット/秒と順次拡充する計画。

 VDSLは,ADSL(asymmetric DSL),SDSL(symmetric DSL)などのxDSL技術の中で,もっとも高速な方式。ただし,伝送距離は300m~1.5kmと他のxDSL技術より短い。変調方式でメーカー間が対立し,ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)の標準化作業が遅れている。NECによれば,「当社が以前から採用しているDMT(discrete multitone)方式が標準になる見通しが固まったため,システム製品の販売を開始した」という。

(安井 晴海=日経コミュニケーション)

(IT Pro注: [発表資料へ]

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