政府のIT戦略会議が掲げた高速インターネットの整備目標値を巡り,解釈が混乱している。同会議が11月にまとめたIT基本戦略の表現が分かりにくいのが原因だ。IT基本戦略では,「(5年以内に)少なくとも3000万世帯が高速インターネットアクセス網に,また1000万世帯が超高速インターネットアクセス網に常時接続可能な環境を整備することを目指す」としている。超高速は30Mビット/秒以上の回線を指しているのだが,超高速が1000万世帯,高速が2000万世帯で合計3000万世帯と考えるのか,それとも超高速が1000万世帯,高速が3000万世帯で合計4000万世帯と解釈するのか,書き方があいまいで判断できない。通信事業を監督する郵政省は,「担当者も混乱していて,問い合わせても分からない」とぼやく。

 郵政省の「21世紀における情報通信ネットワーク整備に関する懇談会」は12月25日にブロードバンドの普及措置などに関する報告書をまとめた。その中でも混乱の影響が見られる。IT基本戦略の目標値について,「合計で4000万世帯であると考えるとした場合」と,苦肉の言い回しを使っているのだ。「IT戦略会議の議長である出井伸之ソニー会長は合計で4000万世帯と言っているようだ」(郵政省)。しかし,この目標値を提案したNTT持ち株会社の宮津純一郎社長は合計3000万という認識。「目標値は,NTTグループのシンクタンクである情報通信総合研究所の予想が基になっている」(宮津NTT社長)。その予想は,「超高速インターネットと高速インターネットの合計で3000万」である。

 3000万か4000万か──。どちらと解釈するかによって,政府がとるべき普及促進策の規模も変わってくる。郵政省の懇談会では,5年後の超高速と高速インターネットの普及世帯数を約2500万世帯と試算。ここではIT基本戦略の整備目標を4000万と解釈しているので,目標値に1500万世帯も足りないことになる。その結果,「目標とする水準の達成のためには,(中略)政府を挙げて取り組む必要がある」(報告書)と結論付けている。例えば,ブロードバンド・インフラの整備に対する超低利融資の範囲を拡大する計画である。郵政省(2001年1月6日から総務省)はその原資の一部として,2001年度は前年度よりも2億円多い10億円の予算を獲得した。整備目標を3000万と解釈していれば,この予算規模はより小さくなっていたはずである。

 果たして日本は,「5年以内に世界最先端のIT国家となる」(IT基本戦略)ことができるのか──。“IT国家戦略”の迷走が続く。

(吉野 次郎=日経コミュニケーション)