NTTコミュニケーションズ(NTTコム)の鈴木正誠社長は11月17日の会見で,市内電話事業に参入することを明らかにした。時期は未定としながらも,「2001年5月ころを意識している」(鈴木社長)と言う。2001年5月には,ユーザーが利用する電話会社を事前登録する電話会社選択サービス「マイライン」が始まる予定で,ユーザー争奪戦の激化が予想されている。KDDIや日本テレコムは既に,この時期に市内電話サービスに参入することを明らかにしている。NTTコムの市内電話参入はこれに真っ向から対抗するものになる。料金は未定だが,市内3分9円での参入を表明したKDDIと同等になる見込み。

 NTTコムは現在,県外通話しか提供していない。県内通話はグループ会社のNTT東西地域会社が担当している。NTTコムが市内参入を宣言したことで,NTT地域会社の反発は必至。NTT東日本の幹部は,「県内と県外通信に役割分担したNTT再編の枠組みを完全に無視している。市内電話サービスを提供するのであれば,東西の地域会社それぞれから2万人ずつ人員を引き取ってもらう」と息巻く。

 しかし,NTTグループの調整役である持ち株会社は,NTTコムによる市内参入を静観するしかなさそうだ。11月16日にはNTTグループの経営形態などを検討している電気通信審議会(郵政相の諮問機関)が答申案を公表。NTTグループ各社が自主経営できるように,持ち株会社によるNTTコムやNTTドコモの出資比率を引き下げることを提言したばかりだ。ここで持ち株会社がNTTコムの市内参入を容認しなければ「NTTグループ各社は,依然として自主的な経営ができない環境にある」と見なされ,グループ収入の多くを稼ぎ出しているNTTコムとNTTドコモの出資比率を引き下げなければならない事態になりかねない。NTTコムの鈴木社長による市内参入の宣言は,絶妙のタイミングだったようだ。

(吉野 次郎=日経コミュニケーション)