10月に入り,次世代インターネット・プロトコル「IPv6」(internet protocol version 6)を使った通信サービス実験を提供する通信事業者が増えている。これまで提供してきたインターネットイニシアティブ(IIJ)とNTTコミュニケーションズ(NTTコム)に加え,10月2日にNEC,23日にKDDI,30日にJENSと,3社が新たにIPv6サービスを始めると発表。NTTコムもIPv6サービスに新規メニューを追加した。IPv6の利用環境が次第に整いつつある。

 現状,IPv6を使う通信サービス実験の形態は大きく分けて,(1)IPv6 over IPv4トンネリング型,(2)IPv6ネイティブ型,(3)IPv6-IPv4トランスレーション型──の3種類がある。(1)のトンネリング型とは,IPv6パケットをカプセル化という技術を使ってIPv4ネットワークをバイパスさせ,ユーザーのIPv6ネットワークとIPv6のバックボーン・ネットワークを接続する方法。(2)のネイティブ型はIPv4をまったく介さないIPv6だけの接続サービス。(3)はIPv6ネットワークからインターネットなどIPv4のネットワークに接続できるサービスである。IPv6サービスを提供する前述の5社はすべて,トンネリング型のサービスを提供する。また,IIJとJENSはネイティブ・サービスも同時に提供。トランスレーション型の実験サービスは,NTTコムが10月10日に開始した。

 これらのサービスの中で,注目すべきは,NTTコムのトランスレーション型の実験サービス。(1)のトンネリング型や(2)のネイティブ型では,ユーザーのIPv6環境から既存のインターネットにアクセスできず,国内のIPv6バックボーン経由で日米欧の研究機関やIPv6の実験ネットワーク「6bone」につながるだけ。IPv6の実験ネットワークでは,ユーザーの絶対数や利用できるWebベースのサービスが現行のインターネットと比較にならないほど少ない。それに対して(3)のトランスレーション型では,IPv6ネットワークからインターネットに接続できる点が大きな特徴である。

 (1)のトンネリングによる接続実験では,ユーザーはIPv4とIPv6のプロトコル・スタックを両方持つ「デュアルスタック」にすることでインターネットにも接続できるが,この時使うのは結局IPv4。これではいつまで経ってもIPv6は,“実験用プロトコル”の檻から出られない。一方,トランスレーション型の実験サービスは,IPv6だけのネットワークからインターネットにアクセスできるため,IPv6だけで構築したネットワークから実用性の高いIPv4ネットワークの資源を利用できる。末端のネットワークでIPv4が必要なくなれば,全面的なIPv6への移行も飛躍的に早まると期待できる。

 NTTコムは,IPv6ネットワークとインターネットの接続に横河電機の子会社ワイ・ディ・シー(YDC)が開発したIPv6-IPv4プロトコル変換装置「TTB」(the translation box)を利用する。YDCは2001年4月にはTTBを商品化し,通信事業者向けのほかに家庭向けにも発売する予定である。最近は,SOHO/個人向けのIPv6対応ルーターや情報家電にIPv6を載せる動きも出てきている。2001年後半には,トランスレーション型のIPv6対応通信サービスや,独自に設置したTTBを通して家庭内に構築したIPv6ネットワークからインターネットに接続するという形態も実現できそうだ。

(野沢 哲生=日経コミュニケーション)