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東京全日空ホテルは2005年3月,総額2億4000万円をかけて館内LANと電話システムを一新した。構内PHS約420台の導入で,連絡や指示が素早く伝わる業務体制を確立。さらに高セキュリティの客室インターネット接続環境も構築した。

 官公庁やビジネス街からほど近い東京・六本木の東京全日空ホテルは3月,館内のシステム刷新を実施した。

 一つはスタッフ向けのIT環境整備。PBXをIP-PBXに変更し,構内PHSとIP電話機を導入。スタッフ間のスムーズな連絡・指示を可能にした。もう一つは,全客室のインターネット接続環境の強化だ。最大100Mビット/秒に高速化するとともに,外部からの不正アクセスを防止。利用客がワームを持ち込んでも,ほかの客室にまん延しない仕組みを作り上げた。

ITをサービス差異化の原動力にする

 今回のシステム刷新を決めた背景には,ホテル業界の競合激化がある。東京全日空ホテルは,他ホテルとの機能・サービス面の差異化で勝ち残りを図るために,まずハード面の強化策として,客室などホテル内設備の大規模改修を実施。これには2005年3月までの約4年間をかけた。投資総額は100億円にも上る。

 そしてソフト面の強化策が,総額2億4000万円を投資した今回のシステム刷新だ。内訳はIP-PBX,構内PHSなどに1億7000万円,インターネット接続環境の整備に4500万円,その他工事などに2500万円である。

 これらは,利用客の満足度を高める“攻め”のIT投資。スタッフ向けのIT環境整備は,利用客対応の迅速化と業務効率化が狙いだ。「IT環境の整備により情報を共有し,利用客の要望に即座に対応できる体制を作った」(國谷吏IT推進室長,写真)。

矢野 隆司
東京システム1部
部長

 一方,客室のインターネット接続環境の強化は,利用客の大半を占めるビジネス客の満足度向上が狙い。「ホテル業界はIT環境の整備があまり進んでいない。利用客が安心して利用できる環境を整えることで,差異化が図れる」(同)と判断した。

構内PHSで1人1時間のロスを解消

 スタッフ向けIT環境の目玉は,構内PHSの導入だ。NECのIP-PBX「APEX7600i」4台とPHS端末「Passage S5」約420台を導入。館内に196台の構内PHS基地局を設置し,IP-PBXとは既設の電話用銅線,MDF(主配線盤)経由で接続した。構内PHSは,(1)音声通話によるスタッフ同士の連絡,(2)ブラウザによる業務システムの閲覧,(3)一斉同報メールによる複数スタッフへの同時指示——などに利用している。なお館内の移動が少ないスタッフは,固定型のディジタル電話機やIP電話機を利用する。

 最も基本的な利用法の(1)だけでも,大幅な業務効率向上につながった。「スタッフ一人の1日当たりの時間ロスを1時間近く短縮できた」(高橋聡IT推進室シニアマネージャー)のだ。

 以前は,スタッフ間の連絡手段にポケット・ベルを利用していた。呼び出しを受けたスタッフは,最寄りのスタッフ用固定電話を探して歩きまわる。そのため,「例えば客室担当者は1日30回程度電話を受けるが,つながるまでに1回当たり1分半~2分もかかっていた」(高橋シニアマネージャー)。合計すると1時間にも上る。それを構内PHSにすることで,すぐに連絡できるようになり,利用客の要望にできるだけ素早く対応できる体制を整えた。

PHSブラウザで予約状況を確認

 構内PHSのブラウザ機能を利用し,客室や宴会場などの状況をチェックできる仕組みも導入した。これまでは,こうした情報は基幹業務システム「NEHOPS」で一括管理しており,館内に十数台ある専用端末からしか閲覧できなかった。しかし新IT環境では,IP-PBXをLANと接続。基幹業務システム・サーバーと常に同期を取る専用Webサーバーを用意し,基幹業務システムの情報を構内PHSから閲覧できるようにした。

 閲覧できる情報は,客室の予約状況,チェックイン/アウト状況,在室状況,清掃状況,宴会場やレストランの予約情報,団体客一覧など。特に「チェックイン/アウト状況と清掃状況の確認が多く利用されている」(高橋シニアマネージャー)。客室の利用客が入れ替わるたびに清掃が必要だが,従来はスタッフ専用スペースにある「ルーム・インジケータ」をわざわざ見に行く必要があり,効率はあまり良くなかった。

 このシステムの設計・構築時は「表示速度の高速化に一番苦労した」(技術面をサポートしたネットワーク・インテグレータのアバの広瀬忠夫社長)。PHSでの情報検索に数十秒もかかるようでは,業務効率を逆に落としかねない。そこで,Webの構成やファイルの並べ方などに工夫を凝らした。またセキュリティを確保するため,業務システムへアクセスする際にはIDとパスワードを入力するようにしている。

 さらに6月には,一斉同報メール・システムを導入した。団体客の到着時などは,荷物の受け取りなどで多数のスタッフが必要になる。従来はスタッフに直接声をかけて集めなければならなかったが,新システムの導入により一斉同報でスタッフを呼び出せるようになった。

信頼性と端末価格で構内PHSを選択

 端末については,無線LANを搭載したIP電話機を選択する手もあった。それでもあえて構内PHSを選んだのは,信頼性と導入価格の安さから。通信速度はあまり必要ないという事情もあった。無線LANの方が高速だが,業務システムがテキスト・ベースのため,PHSの32kビット/秒通信で十分だと判断した。

 しかしPHSを選択したことに起因する,予想外の問題も起こっている。420台のPHS端末のうち,外出が多いスタッフが持つ47台は,NTTドコモのPHSサービスを契約した。ところが,NTTドコモは4月に新規契約を中止。契約を増やす道が閉ざされてしまった。そこで既存の47台を含めて,ウィルコムへの乗り換えを検討中だ。

全客室にファイウォールとIPS機能

 一方,客室でのインターネット接続は,米インクラ・ネットワークスの統合セキュリティ装置「Inkra4000」の導入が最大のポイント。この装置は,1台でファイアウォールやIPS(侵入防止システム),ルーターなど複数の機能を備える。さらに仮想的な機器を稼働させる「バーチャル・ラック」を1台で1000個まで作成可能。つまり,1000台のファイアウォールやIPSアプライアンスをそれぞれ導入した場合と同じ機能を1台に持たせた格好だ。

 各客室はLANスイッチでVLANを分け,Inkra4000を経由してインターネットに接続する。全客室のLANが論理的に独立しており,客室ごとにファイアウォールとIPSを導入している形だ。インターネットやほかの客室から,ワームの侵入や不正アクセスを受ける恐れはほとんどない()。

 またInkara4000の導入は,コスト削減にもつながった。以前はセキュリティを確保するため,利用客用はMCIジャパンのサービス,スタッフ用はアイ・ピー・レボルーションのFTTH(fiber to the home)サービスとインターネット接続回線を分けていた。しかしInkra4000の導入後は,アイ・ピー・レボルーションのサービスに一本化。これにより月額150万円のコストを削減できた。

(白井 良)
図 東京全日空ホテルが3月に完成した客室からのインターネット接続サービス 米インクラ・ネットワークスの統合セキュリティ装置「Inkra4000」の導入により,客室ごとにファイアウォール機能・不正アクセス検知機能を持たせた。


※本記事は日経コミュニケーション2005年7月15日号からの抜粋です。そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。