共立メンテナンスは2005年1月末,同社が運営する寮に1万6500台ものIP電話機を導入した。200カ所以上の多拠点にもかかわらず,約半年の短期間で実現。IPv6が作業負荷の軽減に役立った。

 朝夕食付きでインターネットと電話が使い放題――。こんな利便性が高い寮の運営に一歩踏み出したのが共立メンテナンスだ。

 共立メンテナンスは学生寮・社員寮運営の最大手。全国320カ所で「ドーミー」「ドミール」といった名称の寮を運営する。同社は2004年6月から,運営する寮に順次IP電話を導入。2005年1月末にその数は1万6500台に達した。3月末までに276カ所の寮に導入し,2万台に達する予定だ。

 IP電話導入の狙いは,(1)寮生の電話代削減とインターネット接続環境の改善,(2)通信コストや機器管理費削減の二つ。だが,注目すべきは,大規模多拠点へのスピード展開にある。導入開始からわずか半年で全国100以上の寮に,1万台以上のIP電話を導入。この展開に役立ったのがIPv6だ。

ASPで機器の陳腐化を防ぐ

 共立メンテナンスが導入したのが,IPv6対応のIPセントレックス・サービス「FreeBit OfficeOne」。フリービットが手がけるASP方式のサービスで,8社のコンペから選んだ。このサービスを選んだのは,回線コスト削減が見込めただけではなく,機器を自前で持つ必要がなかったため。管理・運用コストの削減も見込めた。

 同社は,過去に数億円を無駄にしたことがあった。1999年導入したHomePNA1.0対応機器だ。約250棟に導入したが,あっという間に陳腐化。こうしたリスクを負わないため,これから導入するシステムは,自前で機器を持たないことが前提だった。

取締役
情報マネジメント部長
竹本 泉

 電話も同様だ。かつて,頻繁に変わる電話料金への対応に追われた経緯があり,できれば自前の施設は持ちたくなかった。「電話とインターネットの二つのサービスを一気に改善したい」(共立メンテナンス取締役の竹本泉情報マネジメント部長,写真)。これらの要望を満たしたのが,フリービットのサービスだった。

 こうして導入したのが次頁ののネットワーク。IPv6とIPv4が混在するのが特徴だ。寮はIP電話導入に伴い,100Mビット/秒のLANを敷設。WANにはBフレッツを導入し,この回線を音声と共用。部屋数が140室を超える寮は,Bフレッツを2回線に増設した。電話回線は緊急通報用と代表番号への着信用にINSネット64を1本だけ各寮に残し,ほかはすべてIP化した。

 音声系はIPv6,データ系はIPv4に統一し,同一のネットワーク上で扱う。これは,必ずしも寮生全員がインターネットに接続するわけではないためだ。2系統のLANを敷設すると無駄になる。ただし,IPv6とIPv4のネットワークはタグVLANにより論理的に分かれている。使用するIP電話は,IPv6対応以外に,電話機側で音声パケットにタグを付ける機能を備える。この機能は今回の導入に当たり,フリービットが特別にIP電話機メーカーの岩崎通信機に実装を要望した。

寮生の電話代が1/3に

 この結果,コストを大幅に削減できた。共立メンテンナンスがNTT東西地域会社へ支払っていた回線コストが億円単位から数千万円単位に激減。また,PBXは撤去または電源を落とした。以前は年間2000万から3000万円かかっていたPBXの保守料が不要になった。

 寮生にもメリットがあった。「寮生の電話代が従来に比べて半分から1/3に減った」(共立メンテナンス情報マネジメント部情報システム室・ネットワーク事業室の吉住昌弘室長)。固定電話への発信は3分7.875円だが,ぷららネットワークスのVoIP網を利用するIP電話への発信は無料になる。そのため,寮生の保護者から「IP電話を導入したい」といった問い合わせが増えた。

IPv6で工事期間が短縮

 共立メンテナンスの導入事例の特徴は,その驚異的な導入スピード。このスピードに貢献したのがIPv6だ。実証実験を開始した2004年6月から半年後の12月末には,早くも1万台超を導入。その1カ月後の2005年1月末には1万6500台に達した。そのペースは現在でも「1日100台ずつ」(共立メンテナンスの吉住室長)で,3月末には2万台ものIP電話を導入予定だ。

 そもそもIPv6を採用した理由は,(1)2万台の端末へグローバル・アドレスを割り当てる,(2)管理・運用のため即座に端末が特定できる,(3)設定が容易,といった条件を満たしたためだ。

 IPv4では2万台分のグローバル・アドレスを取得するのが難しい。IPv4の場合,NATやNAPTを使ったプライベート・アドレスの使用や,DHCPによる割り当ても考えられる。だがNAT/NAPTを使ったり,DHCPでIPアドレスが変わる環境では,センター側から端末の特定が難しい。

 そして(3)の設定が容易というメリットは,IP電話の劇的なスピード展開を可能にした。

(大谷 晃司)
図 各寮のネットワークとフリービットのASPサービスとの接続 音声とインターネット側に出すデータは同じネットワーク上を流れるが,音声パケットにはIP電話機側でタグが付けられる。LANスイッチがタグを見て音声とデータを適切なネットワークへ振り分ける。


※本記事は日経コミュニケーション2005年3月15日号からの抜粋です。そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。