太陽生命保険は2004年11月,WANを全面刷新した。アクセス回線を増強するとともに中継網や各種機器を2重化し高速で止まらないネットワークを実現。内線電話網のVoIP化にも取り組み,合わせて年間でおよそ2億円を削減できる見込み。

 「保険組曲」などで知られる中堅生命保険の太陽生命保険は2004年11月,業務サーバーなどを置くデータ・センターと支社を結ぶデータ通信ネットワークの全面刷新を完了した。

 セル・リレーを中心としたネットワークから,NTTコミュニケーションズのIP-VPN「Arcstar IP-VPN」やパワードコムの広域イーサネット「Powered Ethernet」を組み合わせたWANへと移行。業務アプリケーションを快適に利用できるよう回線速度を増強すると同時に,中継網やアクセス回線を2重化。止まらないネットワークに進化させた。従来より大幅にネットワークを増強しながらも,年間でおよそ1億5000万円の運用コストを削減できる見込み。

 一方で本社や支社,コール・センターをつなぐ内線電話網のVoIP化にも取り組んだ。こちらは1年間で約6800万円の電話代を削減できる。データ系と合計で2億円強の削減となる。

新アプリの追加で帯域不足に

 太陽生命保険が今回WANの刷新を決意したきっかけは,一部の支社でネットワークの帯域が不足がちになり,「NET’s01」と呼ぶWebベースの統合顧客情報管理システムの通信に支障が出てきたため。

 2001年9月に稼働した旧ネットワークの主回線は,128kビット/秒~1Mビット/秒のセル・リレー。NET’s01の稼働に合わせて刷新したものだ。128kビット/秒はNET’s01を快適に利用できる帯域とはいえなかったが,コスト上の理由で妥協せざるを得なかった。当時,IP-VPNや広域イーサネットなどの新型WANサービスも登場していたが,エリア展開や実績に乏しいうえ,中継網を2重化していても障害時に自動切り替えできないなどの理由から採用しなかった。

 ただでさえギリギリだった帯域に,新たに参入した損害保険の業務システムやeラーニング,グループウエアなどの新しいアプリケーションが加わったため,「一部の支社からは不満の声が出てきた」(太陽生命保険と大同生命保険の情報システムを担当するT&D情報システムの高野陽一朗基盤システム部業務管理課リーダー)。

 だが問題のある支社だけ増速すると割高になってしまう。ルーターをはじめとする各種ネットワーク機器のメーカー保証の期限も2004年4月と間近に迫っていた。一方で,かつて導入を見送ったIP-VPNや広域イーサネットは,通信速度やコスト・パフォーマンスの高さを武器に急速に普及していた。このため旧ネットワークのカットオーバーから2年後の2003年8月には,中継網も含めた全面刷新を決めた。

身軽さ重視でリースよりレンタル

太陽生命保険
事務管理部 部長
上杉 康人

 WANの刷新に当たって,6社のインテグレータでコンペを実施。その結果,構築の主担当をNTTデータに決定した。決め手となったのは,同社の提案がネットワーク機器をリースでなくレンタルで提供すること。

 太陽生命保険では以前から,ネットワークなどの見直し時期がリースにしばられるのは避けたいという思いがあった。リースだと自社の資産になってしまうため,ネットワークをいざ変更しようと思っても,機器の償却の負担が重く身動きが取れなくなる。「グループ企業にリース会社があり条件的には恵まれているとは思うが,やはりリースによる機器の調達は避けたい」と太陽生命保険の上杉康人事務管理部長(写真)は話す。

 レンタルの場合,借り受ける企業は中途解約のペナルティを負わないが,通常月額費用はリースより高くなる。だが,「高いとは思わなかった」(高野リーダー)と,コスト差は問題にならない水準に収まっていた。

中継網とアクセス2重化で耐障害性向上

 太陽生命保険が,新ネットワークでアクセス回線の増強とともに重視したのはバックアップ回線の増強。ISDN回線では,帯域が細すぎたためだ。

 同社は貯蓄性保険を多数保有しており,顧客が支社に出向いて,ATM(現金自動預け払い機)を操作することが多い。契約の保険を担保に現金を下ろしたり,積立配当金を受け取るためだ。ATMもNET’s01などと同じく支社のネットワークを経由して処理される。

 しかし,ISDNではATMの通信と社員の業務通信を同時に利用するには遅すぎる。このため,障害が発生しバックアップ回線を使い始めると,顧客が利用するATM通信を優先させるため,9時~15時は業務通信を控えるなどの対処が必要になる。

 そこでメイン系だけでなく,バックアップ系にも十分な帯域を確保した。メインの中継網はNTTコミュニケーションズのIP-VPN「Arcstar IP-VPN」に,バックアップの中継網はパワードコムの広域イーサネット「Powered Ethernet」を使うことにした()。メインのアクセス回線はNTTコムのイーサアクセスと東西NTTのメガデータネッツ,バックアップ系ではBフレッツを採用。ほとんどの拠点はメイン,バックアップとも1Mビット/秒に増速した。

 ただこれだけの帯域を持つ広域イーサネットを,バックアップ用途だけにしか利用しないのはもったいない。そこで社員のミーティングや支社長会議などのために,Web会議システムを導入した。

 支社長会議は最大16人出席するため,Web会議システムには16画面分割ができる,米ファースト・バーチャル・コミュニケーションズの製品を使用。「1億5000万円の削減費用に上乗せして出張費などを大幅に減らせる」(上杉部長)と期待する。

1日に20拠点で開通作業を実施

 設計を終え,実際の構築作業に入ると,いきなり難問に直面した。すぐに開通するもの思っていたBフレッツが,「もともと開通時期は3~4カ月を要する」「光ファイバの空きがない」「ファイバの管路はあるがまだBフレッツのサービス提供エリアではない」など様々な理由から,開通時期が2004年8月になってしまった。T&D情報システムの三善正俊基盤システム部基盤管理課長は「Bフレッツはすぐに開通できるだろうと思っていたが甘かった」と反省する。

 だが移行は9月中に完了させる必要があった。10月と11月は,太陽生命保険が勧誘に最も力を入れている時期。しかもネットワークの導入作業が可能なのは週末だけのため,1日20拠点を移行させるというハイペースで作業を進めなければならない。

 太陽生命保険とNTTデータは,1日で多数の拠点の移行を成功させるために,テスト手法の最小化を試みた。事前に開通テストにどれくらいの時間がかかるかを測定。機器はNTTデータが事前に耐久テストをしてから太陽生命保険へ持ち運んだ。

 さらに,NTTデータは週末に作業を実施できるように,通信事業者やメーカーと回線の開通や機器の納入スケジュール調整に努めた。そのかいあって,8~9月の1カ月半の期間の週末に約150拠点を移行することができた。「開通時のトラブルは一切なかった。もし通信事業者やメーカーと個々に直接交渉していたら全く間に合わなかった」と三善課長は胸をなでおろす。

(小野 亮)

図 太陽生命保険の新ネットワーク 最大の特徴は耐障害性の向上。拠点のアクセス回線から中継網,中継網とセンターをつなぐ回線に至るまで2重化を施した。


※本記事は日経コミュニケーション2005年2月1日号からの抜粋です。そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。