広島銀行は10月,広域イーサネットによる新ネットを本格稼働させた。コストと冗長性の両立のため4種のWANサービスを併用。きめ細やかなQoSで業務ごとの通信品質を安定させた。サポートを重視し国産機器を調達した。

 広島銀行は,中国地方随一の規模を誇る大手地方銀行だ。同行は,ATM専用線やエコノミー専用線などで構築していた従来の社内ネットワークの更改を決断。約200カ所に上る全拠点を広域イーサネットを使って接続した。西日本地区の地方銀行としては初めて勘定系,情報系,音声をすべて広域イーサネットに統合した。

年間通信コストを3億円削減

 広島銀行がネットワーク再構築を考え始めたのは2003年3月。(1)回線容量の飛躍的な拡張と,(2)通信コストの削減,(3)ネットワークの信頼性向上の三つが大きな狙いだ。(1)の回線容量の拡張が必要になったのは,2003年1月に基幹システムを刷新した後トラフィックが急増したため。また,(3)の信頼性向上を目指すのは,旧ネットワークではLAN内の障害検知ができず,トラブル対応に時間がかかっていたためだ。

 ネットワーク構築を担当する事業者の選定時は,通信事業者やシステム・インテグレータの合計7社にRFP(提案依頼書)を提示。最終的に,NTT西日本と日本IBMに決定した。NTT西日本はこれまでも広島銀行のネットワーク構築を担当しており,日本IBMは勘定系システムなどの構築にかかわっていた。「コストだけでなく,当行の業務に精通している点を重視した」(広島銀行IT統括部システム統括室の平義弘担当課長)。

 2003年11月18日の経営会議で計画が承認され,プロジェクトが具体的に動き始めた。その約1年後の2004年10月にネットワークは無事に本格稼働。回線容量は最大30倍に拡張され,回線や保守料金,機器のリース料金などを合わせると,総額3億円の年間コスト削減を見込む。大規模拠点は広域イーサネットをキャリア分散しながら2重化し,LAN内まで監視できる構成になるなど信頼性を向上させた。「厳しいスケジュールだったが,当初の要件はすべて達成できた」(広島銀行IT統括部システム統括室の釣流賢治氏)。

WANサービスを4種類も採用

 回線容量の拡大とコスト削減,信頼性の確保を徹底的に追求するため,随所に工夫をこらした(p.108の())。これには,拠点の大部分が広島県内にあるという地銀ならではの事情がある。全国一律のサービスよりも,地域限定だが割安なサービスを組み合わせた方が安上がりだったのだ。

 採用したWANサービスはバックアップ用を含め4種類。(1)NTT西日本の広域イーサネット「ワイドLANプラス」,(2)NTTネオメイト中国のイーサネット専用線サービス「AQStageBB」,(3)NTTコミュニケーションズの広域イーサネット「e-VLAN」,(4)NTTネオメイト中国が提供する「AQStage広域イーサネット」――である。

 メインで使っているのはワイドLANプラス。県内の拠点の接続に採用した。「当初はIP-VPNも検討したが,10Mや100M,1Gビット/秒といった高速回線は広域イーサネットのほうが割安だった」(釣流氏)。ただ,ワイドLANプラスはMAごとにWANを構成し,MA間は別途中継回線の料金がかかる仕様。広島銀行の県内拠点は,広島市,三次市,福山市,呉市,尾道市の五つのMAに分散しており,これと広島市内にあるデータ・センターを接続する必要がある。

 データ・センターと同一MA内にある広島市内の拠点は,ワイドLANプラスで直接接続すればよいが,問題は他のMAである。ワイドLANプラスの中継方法は2種類用意されている。データ・センターを中心とするスター型だと安価だが冗長性がなく,メッシュ型にすると冗長性が確保できるがコストが高くなる。そこで他のMA間はAQStageBBを使って,データ・センターとリング型に接続することにした。ワイドLANプラスのフルメッシュより安価で,かつ冗長性もある。

 例えばNTT西日本の尾道局に集約されたトラフィックは通常,呉局経由でデータ・センターへ到達する。尾道と呉の局間で回線トラブルなどがあった場合は,尾道から福山,三次の局を経由する経路に切り替わる。「ルーティング・プロトコルにOSPFを使い,1分以内に切り替わるように設定してある」(NTT西日本の入江洋行第1ソリューションビジネス部門第1SI担当主査)。

 他の二つのWANサービスのうち,e-VLANは県外の拠点の接続に使う。また,AQStage広域イーサネットは大規模拠点のバックアップ用に契約。中小規模の拠点のバックアップには,ISDNを用意した。

図 広島銀行の新ネットワーク データ・センターを中心に大きく分けて六つのブロックで構成されている。コスト削減と信頼性を徹底的に追及した結果,4種のWANを使い分ける形になった。


※本記事は日経コミュニケーション2004年12月1日号からの抜粋です。 そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。