森永乳業は国内約240拠点を結ぶWANを刷新する。IP-VPNと広域イーサネットを相互接続して単一網のように運用。さらに,バックアップ用回線のBフレッツやフレッツ・ADSLをIP電話にも使い大幅なコスト削減を見込む。

 様々な乳製品を製造・販売する森永乳業は,9月からWANの大幅刷新に着手している。新たに日本テレコムの広域イーサネット「Wide-Ether」を導入。これまで使ってきた同じ日本テレコムのIP-VPN「Solteria」と相互接続させることで,両サービスを一つのネットワークのように,柔軟に利用できるようにする。

 同時に各拠点のバックアップ回線を,従来のISDNからBフレッツやフレッツ・ADSLに変更。これらはメインのアクセス回線が接続する網とは異なる網に接続する。例えば,メイン回線を広域イーサネットに接続する拠点は,バックアップ回線をIP-VPNにつなぐというやり方だ。

 2本のアクセス回線を“たすきがけ”にすることで,一方のサービスがダウンしても通信を維持できる仕組みを作り上げた。さらにこのバックアップ回線は内線網のIP化にも活用する。

 現在は移行作業の真っ最中。2004年12月末までに,以前からSolteriaを使っていた関連会社・倉庫の174拠点を除き,森永乳業の全68拠点の切り替え作業を完了させる計画だ。

バラバラのWANには大きな欠点が

 森永乳業は,これまでもNTTコミュニケーションズ(NTTコム)の広域イーサネット「e-VLAN」と,Solteriaの二つのWANサービスを利用していた。同社が二つの異なるサービスを利用する理由は大きく二つある。

 一つは経路制御の問題。「一つの網で200を超える拠点を扱うと,パケットの経路制御が難しくなる」(齋藤貴弘情報システム部副主任)。

 もう一つは回線コスト。大規模拠点では,高速なイーサネット専用線をアクセス回線に使える広域イーサネットの方がコスト上有利。一方,128kビット/秒など低速回線でも十分な小規模拠点は,「広域イーサネットにするとアクセス回線がIP-VPNよりも割高になってしまう」(齋藤副主任)。トータルコストを検討した結果,拠点の規模に応じてIP-VPNと広域イーサネットを使い分ける形が最適だった。

 もちろん二つのサービスを使えば,耐障害性の面でもメリットがある。

 しかし,このネットワーク構成には欠点があった。IP-VPNと広域イーサネットが接続されていないため,異なる網に接続している拠点同士は,「さがみ野研究・情報センター」(さがみ野センター)を経由しないと通信できないという点だ。

 この先,内線網のIP化を進めると拠点間通信が多くなり,さがみ野センターのアクセス回線がボトルネックになりかねない。このアクセス回線に障害が起きれば,最悪の場合,拠点間で通信ができなくなる恐れもある。

 また各拠点のバックアップ回線に使っていたISDNも,能力の限界に近付いていた。さがみ野センターの業務システムへのトラフィックが急増し,処理し切れなくなってきたのだ。「バックアップに切り替わったときに仕事にならないという悲鳴が社内で上がっていた」(齋藤副主任)。

インターワークで柔軟なWANを実現

 そこで森永乳業は,これらの課題を解決すべくWANの刷新を決断した。

 まずは,IP-VPNと広域イーサネットの直接接続,いわゆる「インターワーク」の実現だ。インターワークがあれば,さがみ野センターを経由せずに拠点間通信ができる。

 インターワークを実現するには,二つのWANサービスの提供事業者を同じにする必要があった。NTTコムは,IP-VPNと広域イーサネットのインターワークをサービスとして提供している。一方,日本テレコムにはそれがない。ところが日本テレコムは,個別対応でインターワークを作り,さらにNTTコムよりもトータルコストを安くできるという。そこで森永乳業は,e-VLANをWide-Etherにリプレースすることに決めた。

 インターワークは,日本テレコムのデータ・センター内に構築した。広域イーサネットに接続するルーター,IP-VPNに接続するルーター,経路制御を担うルーターの計3台で構成する。これは,全体をインテグレーションするAT&Tグローバル・サービス(AT&T GNS)が設計した。

 インターワークは網を直接接続する役目のほか,パケットの経路をコントロールする上でも重要な役割を果たす。

 新ネットワークはOSPFやBGP-4といったルーティング・プロトコルを使い,経路制御を実現している。例えば広域イーサーネットをメイン回線とする拠点から,さがみ野センターにアクセスする場合は,BGP-4を使って広域イーサネット経由でそのままセンターに接続する()。同様に,メイン回線がIP-VPNの拠点もIP-VPN側のアクセス回線を使ってセンターにアクセスする。

 メイン回線に障害が起きたときは,バックアップ回線を使ってセンターにアクセスする。ところがこの場合は,経路が少し複雑になる。ここでインターワークの働きが重要になるのだ。

図 データ通信と内線通話の流れ 通常はメイン回線をデータ通信に,バックアップ回線をIP内線電話に利用する。インターワークは,パケットの経路をコントロールする上で重要な役割を担う。


※本記事は日経コミュニケーション2004年11月15日号からの抜粋です。 そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。