ポイント
 Bフレッツとフレッツ・ADSLでアクセス回線を2重化
 年間で800万円以上の通信コストを削減
 IP電話は時期尚早と判断し導入せず

パチンコ機製造大手の平和は3月に社内ネットワークを全面刷新。BフレッツとADSLで2重化したアクセス回線を採用した。8倍以上の広帯域化と専用線並みの信頼性,そして年800万円以上のコスト削減という“一挙三得”を狙った。

(武部 健一)

 平和は2004年3月,この2年間で2度目の企業ネットワーク刷新を実施した。まず2002年2月に,64kビット/秒のフレーム・リレー網から,ある大手通信事業者のIP-VPNと専用線を組み合わせたWAN(wide area network)に変更。そして,わずか2年後のこの3月,再びWANの全面刷新へと踏み切った。全37拠点で,NTTPCコミュニケーションズ(NTTPC)のIP-VPNとフレッツなどを組み合わせたWANへ切り替えた。

平和
情報システム部長
菊地一郎氏

 新しいWANの最大の特徴は“フレッツの2重化”である。これは,27拠点に「Bフレッツ(ニューファミリータイプ)」と「フレッツ・ADSLモア(12Mタイプ)」を引き込んでアクセス回線を2重化し,「専用線並みの信頼性を狙った」(平和の菊地一郎情報システム部長,写真)。

 通常時はフレッツ・ADSLモアは利用しない。Bフレッツに障害が起こった場合に,フレッツ・ADSLモアに自動的に切り替わるように設定している。単一の回線では信頼性が高いとは言い難いフレッツでも,2重化すれば業務に耐え得る品質を確保できると考えた。高速で安価なフレッツを採用することで,8倍以上の帯域増と年間800万円以上の通信コスト削減を達成する見込みである。

情報共有進めるためネットを刷新

 平和は,1949年に創業者の中島健吉氏(現ファウンダー名誉会長)が「パチンコは平和の象徴」との思いから立ち上げた企業。パチンコ機メーカーとして91年に初めて株式公開を果たすなど,戦後一貫してパチンコ業界のリーダー的存在だった。

 しかし95年ころまで業界トップを走り続けた同社も,現在では「海物語」など他社製品の大ヒットを許し,売上高で業界3位に。またゲーム・メーカーがパチンコ機の企画に参入するなど,業界の競争も激化している。競争力の強化と「業界首位奪還」が同社の至上命題だ。

 そのための“要”となるのが,社員間の情報共有。2002年3月以前はメインフレームをベースにしたシステムで,翌日までデータの集計ができなかった。2002年にWAN刷新に合わせてオープン・システムを導入して以来,販売データなどの経営判断に必要な情報は15分に一度集計できるようになった。

 さらに2003年2月,独自開発したWebブラウザ・ベースの情報共有システム「がってん倶楽部」を全社で導入。がってん倶楽部は掲示板やスケジュール管理,メールなどの機能を備えている。新製品情報や展示会の報告など,業務情報の社内共有を図れるようになった。

機器は流用かレンタルが中心

 平和の企業内ネットワークは,現在は実効速度で約1M~2Mビット/秒のBフレッツ。旧WANのアクセス回線は,128kビット/秒の専用線が中心だった。旧WANは「導入以来2年間で,業務時間内に大きな障害が起こったのは,列車事故で架線が切れた時の1度だけ。基本的には満足していた」(菊地部長)。

 しかし問題があった。帯域不足である。トラフィックの増加でWANの帯域が圧迫され,各拠点での事務処理にストレスがかかるようになってきた。帯域増強を目的としたWANの刷新が急務となり,2003年6月ころから新しいWANの検討を開始した。

 ただし,ネットワーク刷新に多額の資金は注ぎ込めない。そこで,ネットワーク機器などは新規購入しなかった。新たに導入したIPsec対応ルーターなどの機器はレンタルにし,初期導入コストを極力抑えた。

 実は,旧WANで使っていた30台強の機器は,以前のフレーム・リレー時代にWANを構成していた機器の流用が中心。これにより,旧WANの初期導入コストを大幅に抑えていた。導入コストの償却が足かせにならなかったので,旧WANの利用をわずか2年で止めて「新しいWANへ身軽に切り替えることができた」(菊地部長)。

 平和は旧WANを導入した後に,社内の業務システムをメインフレームからWindows 2000 ServerやLinuxを使ったオープン・システムへ移行した。「今から振り返ると,これがトラフィック増の引き金になった」(菊地部長)。

オープン化がデータ増の引き金に

 2002年1月まで使っていたメインフレーム時代のネットワークは64kビット/秒のフレーム・リレー。帯域は狭かったがそれほど大きな問題はなかった。しかし,「システムをオープン化すると,様々なアプリケーションを導入したくなる。これに伴ないトラフィックも急増した」(菊地部長)。

 特に予想以上に増えたのが,がってん倶楽部や電子メールなどの「情報系トラフィック」だ。これは,ショールームで行う新製品展示会などの様子をデジタルカメラで撮影し,その画像をがってん倶楽部の掲示板に投稿,“客の入り具合”を社内で共有する――といったように,様々な用途でシステムを使い始めたからだ。昨年は8回あった新製品の発売時期には,とりわけネットワークの利用率が高まる。

フレッツ2重化で信頼性は専用線並み

 従来のWANでは,アクセス回線として主に「ディジタルアクセス」を使用していた。アクセス回線の帯域は,本社(群馬県桐生市)を含む3拠点が1.5Mビット/秒で,33拠点が128kビット/秒だった。これを,Bフレッツやフレッツ・ADSLモアなどへ一気に切り替えた()。

 平和では当初から,アクセス回線にブロードバンドを導入したいと考えていたが,「NTT(東西地域会社)のWebページを見ていると,毎日どこかでBフレッツの障害が起きている。Bフレッツだけでは不安だった」(菊地部長)。こう思っていたところ,NTTPCがフレッツ・ADSLモアによるバックアップを提案してきたので,採用に踏み切った。

図 平和の新ネットワーク アクセス回線をBフレッツとフレッツ・ADSLモアで2重化。専用線並みの信頼性を低コストで実現。OSPFとBGPを組み合わせてルーティングする。


※本記事は日経コミュニケーション2004年4月12日号からの抜粋です。 そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。