【当初の計画】
現在の評価
広域イーサは安定

当初かなり不安定,後に安定
アクセス回線にADSLを追加

実現せず。他事業者を利用することに
帯域

予想通り改善

ニチレイは広域イーサとIP-VPNを採用して社内ネットを広帯域化した。一時期広域イーサが予想以上の頻度でダウンしたが,現在は安定。一方,一部の拠点でアクセス回線にADSLを使う計画は,サービス側が対応せず変更を余儀なくされた。

(山崎 洋一)

 冷凍食品を中心とした加工食品事業と低温物流事業を手がけるニチレイは,2002年4月から全国150拠点を結ぶ大規模な社内ネットワークの刷新を始めた。それまでの主回線はフレーム・リレーで副回線はISDN回線,新ネットワークでは主回線に広域イーサネット,副回線にIP-VPN(仮想閉域網)を採用した。

 2004年3月現在,ネットワークの移行作業はまだ続いている。先行して稼働した拠点では広帯域化に成功。ただし,広域イーサネットがよく落ちる時期があった,足回りにADSL(asymmetric digital subscriber line)を使う計画がなかなか実現しなかった――といった予想外の事態にも直面した。

副回線は通常時IP内線に利用

 新ネットワークは,主回線にパワードコムの広域イーサネット・サービス「Powered Ethernet」,副回線にKDDIの「KDDI IP-VPN」を採用している。拠点から広域イーサネット網には,10Mビット/秒の専用線で接続。IP-VPN網には1.5Mビット/秒の専用線でつながっている。広域イーサネットもIP-VPNも専用線で東京都に4カ所あるデータ・センターにつながっており,そこに業務用のサーバーを置いている。

 通常は広域イーサネットで通信するが,広域イーサネットがダウンするとIP-VPNに切り替える。IP-VPNには通常時はVoIP(voice over IP)の音声データを流している()。IP-VPNが持ち腐れにならないように,内線電話の中継部分をIP化したのである。広域イーサネットがダウンしてデータをIP-VPNに流す場合,電話は外線網に切り替える。

 刷新前のネットワークは,ニチレイの情報システム部が運用していたが,2003年4月に情報システム部門を分社化。ニチレイが日立製作所と共同で設立した日立フーズ&ロジスティクスシステムズにアウトソースした。ルーターおよびスイッチの監視は,高千穂交易に委託している。

帯域不足から刷新を決意

 ニチレイが社内ネットワークの刷新を決意した大きな理由は帯域不足である。同社はネットワーク上で,グループウエア,受発注システム,会計システム,それらに関する帳票システムなど,数多くのアプリケーションを稼働させている。

 しかし,刷新前の社内ネットワークは,多くの拠点が64kまたは128kビット/秒のアクセス回線でフレーム・リレーにつながっており,帯域が不足していた。副回線も,多くの拠点が64kビット/秒のISDN回線である。本社や支社だけがATMメガリンクに10Mビット/秒,セル・リレー網に最高2Mビット/秒の速度で接続していた。

 ニチレイの情報システム部から日立フーズ&ロジスティクスシステムズに出向している村山佳久ソリューション第二事業部第一グループマネジャーは,刷新前の帯域を「フレーム・リレーを使う拠点ではレスポンスが相当遅かった」と言う。グループウエア「ロータス ノーツ」のメールやデータベースを開くのに何分もかかってしまう場合があった。

 そんな折,ATMより安価で,拡張性があるIP-VPNや広域イーサネットといった通信サービスが台頭してきたため,ニチレイは社内ネットワークの刷新を決意した。

EIGRP対応が広域イーサの決め手

 主回線に広域イーサネットを選んだのは,従来のネットワークでも使用していたルーティング・プロトコル「EIGRP(enhanced interior gateway routing protocol)」をそのまま使いたかったためだ。EIGRPは米シスコ・システムズが開発したルーティング・プロトコルで大規模な企業ネットに向いている。

 広域イーサネット網をはさんで拠点側にあるルーターとデータ・センター側にあるルーターが,EIGRPでルーティング情報をやり取りする。異常を検知するとルーティング経路をIP-VPN網経由に切り替える仕組みだ。同じ拠点内にある広域イーサネットにつながるルーターとIP-VPN側につながるルーターも,EIGRPでルーティング情報を交換している。

 ニチレイは刷新前のネットワークでもEIGRPを利用していた。「データ・センターまでのルーティング経路を数秒から数十秒で切り替えられるため,できればプロトコルを変えたくなかった」(日立フーズ&ロジスティクスシステムズの村山マネジャー)。EIGRPは広域イーサネットでは利用できるが,IP-VPNは対応していない。

 副回線には,主回線のバックアップとなり,かつ主回線がダウンしていないときは有効活用のために音声データを流すといった要件があった。QoS(quality of service)を使えることや,静的ルーティングが使えればよいといった点を考慮してIP-VPNを選んだ。最近ではQoSメニューを提供する広域イーサネット・サービスもあるが,検討当時はなかった。ルーターでQoSをかけて,音声を優先して通している。

図 ネットワーク刷新時から2003年夏にかけてのニチレイの社内ネットワーク 広域イーサネットが主回線,IP-VPNが副回線になる。正常時にはIP-VPNにVoIPの音声データを流す。


※本記事は日経コミュニケーション2004年3月22日号からの抜粋です。 そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。