【当初の計画】
現在の評価
高速回線の確保

新サービスの積極導入でさらに高速化
コスト削減

データに続き音声もIP化で半減
安定稼働を想定

予想以上の停止に戸惑いも

大成建設は,広域イーサネットとIP-VPNを組み合わせて活用中。ネットの混雑度やスイッチの処理性能を計測し,常に最適なネットワークを維持するよう努めている。何度か障害を経験したものの,総合的に新型WANを高く評価する。

(中川 ヒロミ)

 大成建設は2001年度から3年かけて,社内システムとネットワークを全面的に刷新した。基幹システムはメインフレームからUNIXサーバーに変更。社内ネットワークは2001年12月から2002年6月までの半年間で,広域イーサネットとIP-VPNの混合型ネットワークに移行した。

 それまで大成建設が利用していたのは,NTTグループや電力系通信事業者のATM専用線サービス。再構築の際に重視したのは,(1)広帯域を確保すること,(2)通信コストを削減すること――の二つだ。

 大成建設は高速化とコスト削減を両立させるため,利用サービスを絞り込まず,あえて二つのサービスを用途によって使い分けることとした。というのも本社/支店と作業所では,ネットワークの利用形態が全く違うからだ。

 支店は,多くの作業所や本社と情報を交換する。各支店の社員数は数百人もいるためトラフィックが多く,常時高速な回線が必要になる。一方,工事現場である作業所では,管轄する支店に対してだけ,工事の進ちょく状況を報告する。写真なども送るため高速回線が必要だが,支店ほどではない。数が多いため,1拠点当たり月に何十万円もの通信費をかけられない。

 そこで,支店や本社を結ぶ幹線には富士通の広域イーサネット「FENICS ビジネスEthernetサービス」を,作業所を結ぶ支線部分には富士通のIP-VPN「FENICS ビジネスIPネットワークサービス」を採用した。

コストを考えればトラブルも許容範囲

 導入後が完了しても,それでネットワークが完成した訳ではない。広域イーサネットで低料金のメニューが始まれば,見逃さずに採用。さらに,内線電話をVoIP化してコスト削減を進めている真っ最中である。こうした取り組みの結果,ATM専用線と比べて回線速度は数倍以上に高速化した上で,通信費を半分以下に抑えた。

 ただし,新サービスの安定性には頭を悩ました。社長室情報企画部の松原利幸課長代理は,「新ネットワークを導入した当初は,安定性の違いにかなり戸惑った」と打ち明ける。というのも,ATM専用線に比べて,広域イーサネットの障害が非常に多かったからだ。

 それでも同じ社長室情報企画部の北村達也次長は,現状のネットワークを非常に高く評価している。「ネットワーク障害があっても,当社の業務に大きな影響はない。障害も以前より減っている。高速性とコストを考慮すれば,ほぼ満点に近い」と言う。

1300カ所の作業所はADSLで格安に

 各作業所には,支店との間で作業工程などの情報を交換できるサイト「作業所Net」を導入。さらに,Webベースのグループウエアの導入するなどトラフィックは増えつつあった。各作業所をつなぐネットワークの高速化は必須条件だった。

 ただし,作業所は全国に1300カ所もある。通信費を考えると,高額なサービスを作業所に導入するわけにはいかない。そこで,「1拠点当たり,月1万円で収まるADSLとIP-VPNを導入することにした」(北村次長)。

 アクセス回線には,NTT東西地域会社の「フレッツ・ADSL」を採用。IPsecルーターを作業所に配置して,セキュリティを確保しながらIP-VPNに接続する()。

 もっともADSLを導入したのは,1300カ所の作業所のうち約800カ所にとどまる。ADSLはNTT局から遠い場所では使えないからだ。ADSLを引けない場合は,定額ISDNサービスの「フレッツ・ISDN」や,FTTHサービス「Bフレッツ」など導入している。

100M回線はコスト優先で広域イーサ

 一方,支店,本社,基幹サーバーを設置してあるデータ・センターは,数M~100Mビット/秒クラスの回線で結ぶ。「作業所がADSLで1.5Mビット/秒以上,FTTHで100Mビット/秒でつながるなら,作業所を統括する側の支店やデータ・センターには当然,数M~100Mビット/秒の回線が必要。このクラスの回線は,IP-VPNよりも広域イーサネットの方が安い。また,面倒な設定があるIP-VPNよりも,“土管”として使える広域イーサネットの方がよいと判断した」(北村次長)。

 IP-VPNも広域イーサネットも,富士通のサービスでそろえたのは,両サービスを接続するゲートウエイ機能があったからだ。二つのサービスを使っても,大成建設の運用負荷は増えない。

 ただし,広域イーサネットには使いにくさもあった。導入時,アクセス回線の品目が少なかったことだ。本来なら,名古屋支店など中規模の支店には,1.5Mビット/秒超の回線を導入したかった。ところが,広域イーサネットで1.5Mビット/秒より高速な回線となると,10Mビット/秒に跳ね上がってしまう。高額になり過ぎるため,1.5Mビット/秒で妥協していた。

 そこに朗報が届いた。パワードコムが2003年3月から順次,広域イーサネットに2M,5Mビット/秒などのアクセス回線を追加したのだ。実は,大成建設が使う富士通の広域イーサネット・サービスは,パワードコムの広域イーサネットをベースにしている。高速化とコスト削減の見通しが立った。

 早速大成建設は,他の通信事業者も含めて提案を募った。結局,富士通とパワードコムの組み合わせを採用。名古屋支店を含めた5支店を1.5Mビット/秒から5Mビット/秒に高速化した上で,年間通信費の1~2割に相当する2700万円も削減できた。

図 大成建設の社内ネットワーク 支店など十数カ所の大中規模拠点を結ぶネットワークには広域イーサネットを採用した。一方,全国に約1300カ所ある作業所は,東西NTTのフレッツ・シリーズ経由でIP-VPNで接続している。


※本記事は日経コミュニケーション2004年2月23日号からの抜粋です。 そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。