ポイント
 専用線ベースの社内網を更改し,年間7000万円のコストを削減
 IP-VPNの導入により分散していたサーバーを3カ所に集約
 外線発信のIP化を視野にIPセントレックス・サービス導入

ガラス製造大手の日本板硝子が9月,拠点間ネットワークの刷新を完了した。データ系と音声系のネットワークをあえて分割。音声系はPBXを各拠点に残したまま,NTTコミュニケーションズのIPセントレックス・サービスを導入した。

(白井 良)

 日本板硝子は,全国に48カ所ある拠点間を結ぶネットワークを5年ぶりに刷新。新ネットワークでは,音声の伝送技術にVoIPを導入した。

 まず8月にデータ系ネットワークをNTTコミュニケーションズ(NTTコム)のIP-VPNサービス「Arcstar IP-VPN」で構築。9月に稼働させた音声系ネットワークにはNTTコムのIPセントレックス・サービス「.Phone IP Centrex」を採用した。両方のネットワークは,アクセス回線からすべて別に分けた。

 あえてデータと音声を別に分けたのは,一つのネットワークでデータと音声の両方を扱うと,初期投資がかさみ,同時に運用にかかわる作業が増えると考えたから。同社は以前,一つのATM専用線ネットワークにデータと音声を両方とも通していた。井上博文・情報化推進室システム企画グループ主席は「これまでの網は運用が大変だった」と経験を語る。

データ系ネットはコスト重視で選択

 データ系ネットワークにArcstar IP-VPNを採用した決め手は,コストの安さだった。井上主席によると「見積もりを取った通信事業者の中で,NTTコムが最も安い料金を提示した」。広域イーサネット・サービスも検討したが「我々が必要とする中低速のアクセス回線はIP-VPNの方が安かった」(同)という。

 アクセス回線は,拠点の規模に応じて東西NTTの→ダーク・ファイバ,メガデータネッツ,ディジタル専用線とアッカ・ネットワークスのSDSL(single line/symmetric digital subscriber line),ADSL(asymmetric digital subscriber line)を使い分ける。アクセス回線の通信速度は従来に比べ,平均で3.2倍になった()。

 アクセス回線の2重化やバックアップはしていない。「仕組みが複雑で,コストがかかる割に使う機会が少ない」(井上主席)と判断したからだ。障害が起きた場合は,ファクシミリや電話を使うなどの運用で対応する。

WANをフラット化してサーバー統合

 ネットワーク刷新と同時に,各拠点に置いていたサーバーを集約した。IP-VPNでネットワークをフラットな構成にして,アクセス回線を高速化したことで可能になった。

 サーバー集約を機に,運用をデータ・センター事業者にアウトソーシングしてサーバー管理の手間を削減。同時に,サーバーの数を減らして資産の圧縮も狙った。

 各拠点にはファイル・サーバーと,クライアント・パソコン向けのウイルス対策サーバーしか置いていない。基幹システムのホスト・コンピュータ,業務システム・サーバー,グループウエア用サーバー,メール・サーバーなどのインターネット関連サーバーは大阪2カ所,東京1カ所の計3カ所のデータ・センターに集約した。3カ所に分けたのは,危険分散とトラフィック分散の狙いからだ。

ネット刷新だけで7000万円を削減

 今までの拠点間ネットワークは,東京と大阪の本社を中心に専用線で拠点間を結んだスター型の構成。専用線は通信コストの問題から,通信速度が遅い回線を使っていた。

 さらに回線や機器の障害にも弱い。東京本社/大阪本社で障害が起こると,それぞれ東日本/西日本エリア全体が不通になった。サーバーの管理も面倒だった。拠点間の回線が低速という理由から,各種サーバーを拠点ごとに設置したからだ。サーバーの保守には,各拠点まで出向く必要があった。

 大規模拠点は,データ・音声ともにATM専用線で結んだ。1本の線をデータと音声で共用するため,NECのATM交換機「MM-Node」を使って多重化していた。問題は同製品のリース料金と保守料金が非常に高額だったこと。コスト面で悩みの種になっていた。

 つい最近まで専用線で構成したスター型のネットワークを使い続けていた理由は,ATM交換機のリース契約が残っていたため。およそ5年前に,ATM専用線ネットワークを構築した際に導入したもので,リース契約期間は5年間だった。

 機器のリース期間が切れた拠点やディジタル専用線を使っていた拠点は,順次IP-VPNに移行していた。今年になりATM交換機の大半が更改期を迎えたため,ネットワーク全体の刷新に踏み切った。

 従来のネットワークでは,通信料,機器のリース・保守料,運用料の合計で年間2億1000万円かかっていた。刷新したネットワークでは1億4000万円と,およそ3分の2にまで削減できた。コスト面の負担になっていたATM交換機をなくしたことが大きい。

 新ネットワークのコストには,通信料,機器のリース・保守料,運用料に加え,構築料などの初期費用を5年間で分割した値も含まれている。

図 日本板硝子のデータ系ネットワーク 2003年8月に従来のATM専用線ネットワークからの移行を完了した。アクセス回線の速度は従来に比べて平均で3.2倍。管理を楽にするため,業務システムとグループウエア用サーバーをデータ・センターに集約した。ADSLとSDSLはアッカ・ネットワークスのサービスを利用。


※本記事は日経コミュニケーション2003年12月8日号からの抜粋です。 そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。