DDIポケットの定額PHSを使い通信コストを抑制
IP-VPNと広域イーサを適材適所で採用
端末は使い勝手や通信コストなどの理由からPDAを選択
スタッフサービスは9月,営業部員約900人にPDA(携帯情報端末)を配布する新システムの導入を完了した。各部員が収集した顧客情報を逐次PHS網経由でデータ・センターにあるデータベースに送信。全社で共有し,営業力強化に役立てる。
(蛯谷 敏)

 あるゴルフ・コースでの一場面。上司が放ったショットは,コースを外れて池に。すると,部下が次々と池に飛び込み,われ先にとボールを探す。すべては上司のため。この状況に違和感を覚えた一人が,たまらず携帯電話をかける。「会社に恵まれなかったら,スタッフサービス」――。

 人材派遣会社大手のスタッフサービス・ホールディングスが放映したテレビ・コマーシャルの一コマだ。同社の創業は1981年。97年から放映を始めたユニークなテレビ・コマーシャルで一躍注目を浴びた。2002年4月には持ち株会社制に移行し,人材派遣のほか,再就職支援や人材紹介などの事業会社を傘下に持つ。2003年3月末の連結売上高は前年比27%増の1877億6500万円を誇る。

競争を勝ち抜くためモバイルを採用

 厚生労働省の調査によると,全国の人材派遣事業者の総売上高は2002年3月末で1兆9462億円。前年比16.4%増で成長している。派遣社員として働く人材の数も,前年比26.1%増の約175万人に達する。

 拡大を続ける市場を巡り,人材派遣会社も,し烈な競争を続ける。スタッフサービスは,パソナやテンプスタッフ,リクルートスタッフィング,さらには外資系のマンパワー・ジャパンなどとしのぎを削っている。

 激化する競争を勝ち抜くためにスタッフサービスは,「NCP」(new century project)と呼ぶシステムを導入。企業を訪問し,派遣の受注を獲得する営業担当者をシステムで徹底支援することを狙った。具体的には全国に約900人いる営業担当者全員に,PHSカードを装備したPDAを持たせる。訪問先企業の業務内容や事業規模,総務部門の担当者など会うべき「キー・パーソン」の名前――といった情報を,いつでも閲覧可能にした。

 さらに訪問後は,「実際に誰と会ったか」などの訪問履歴をPDAに登録。「競合他社の営業はいたか」,「競合他社の派遣社員は増えたか」,「オフィス・フロアの密度はどうか」――といった詳細な情報も入力させる。データはPHS網経由でデータ・センターに送る。

 スタッフサービスの狙いは,個々の営業担当者の訪問履歴の共有による,全社的な営業力の強化にある。営業担当者が入力した情報は本社側で閲覧できる。本社に常駐するスタッフは,これらのデータを活用して営業担当者を支援する。

 具体的には,セールス・トークなど営業にかかわるノウハウや,「次回の営業ではどういう立場の人間を連れていくべきか」などの支援情報を提供する。現時点では営業担当者とのやり取りはすべて携帯電話による会話だが,将来はPDAを使ったデータ配信を検討している。

紙ベースの日報入力をPDAで

スタッフサービス・
ホールディングス
取締役
佐藤 治夫

 実は,スタッフサービスは以前から,営業部員が足で稼いだ顧客情報をデータベースとして蓄積していた。営業部員が各社を回った情報を紙の日報に記入し,1日の終わりにパソコンで入力していた。

 だが,こうした作業は営業部員にとって負担が大きかった。「営業は多い日には40社以上も訪問する。その後に個々の企業情報を入力しようとしても,すべての会社について詳細な情報を覚えていない」(スタッフサービス・ホールディングスの佐藤治夫取締役,写真)。

 PDAを使えば,こうした課題を解決できる。1社営業するごとに,訪問直後の“新鮮”な情報を即座に入力できる。うろ覚えで記入する場合もあった紙ベースの日報に比べ,情報の精度をぐっと高められた。


定額PHSは富士通に切り替え

 さらに,定額PHSサービスの存在もシステム導入を後押しした。「年間の通信費用をある程度の範囲で見通せるようになった点が大きい」(朽方達美・業務本部システム情報部主幹マネージャー)。DDIポケットの定額PHS「Air H″」を利用している。

 定額PHSを利用した結果,スタッフサービスの月ごとの通信費は約490万円になった。内訳は,月額費用約4300円の定額PHSが1100契約で,DDIポケット網とデータ・センターを結ぶ専用線が数十万円である。

 PHSを1100回線も契約しているのは,盗難や故障の予備機を用意するための措置。全国に散る営業担当者に即座に手渡せるように,200台の予備機を各地に配置している。「PDAがなくてはほとんど仕事にならないため,故障時に即座に代替機を渡せる体制が必要だった」(朽方主幹マネージャー)。

 PHSの通信速度は32kビット/秒。64kや128kビット/秒の高速サービスは利用していない。「大容量コンテンツなどは配信しないため,特に高速なサービスは必要ない」(工藤祐司・業務本部システム情報部マネージャー)。通信環境はおおむね満足しているが,場所によっては速度にばらつきが出るという。

 PHSの通信費用をさらに削減できる見込みもたった。富士通の定額PHSサービス「mobile+」への移行を予定しているからだ。サービス切り替え後は「PHS通信カードを買い替える初期費用を含めても,DDIポケットのサービスよりも年間コストを2割程度を削減できる見込み」(朽方主幹マネージャー)。

7台のWebサーバーで信頼性向上

 新営業支援システムの構築に当たっては,信頼性とセキュリティの確保に力を入れた。サーバーはデータ・センター事業者のエッジにハウジング。運用をすべて任せている()。

 まず信頼性は,900台のPDAからのアクセスを処理するために7台のWebサーバーを用意。アクセスが集中しても,営業担当者が入力したデータが届かないといった事態を回避できるようにした。

 サーバーの前には,カナダのノーテルネットワークスのサーバー負荷分散装置「ACEdirector」を設置。営業担当者からのアクセスをWebサーバーに均等に振り分ける。

図 スタッフサービスの営業支援システム「NCP」(new century project)の仕組み 7台のWebサーバーで,約900人の営業担当者からのアクセスを処理する。営業担当者から収集したデータはデータベースに蓄積して営業戦略に役立てる。


※本記事は日経コミュニケーション2002年6月23日号からの抜粋です。 そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。