富士写真フイルムは2000年7月,日本初の広域イーサネット・サービス,CWCの「広域LANサービス」を採用した。初期ユーザーの1社である。
富士写真フイルムが新ネットワークの構築を検討し始めたのは1999年6月。連結決算をにらみ,グループでネットワークを統合する計画を進めていた。ネットワークの統合には,膨大なコストと手間がかかる。「コスト削減はもちろんだが,簡単に拠点を追加したり帯域を増強できるサービスを探していた」(富士写真フイルムのネットワーク/システムを担当する富士フイルムコンピューターシステムの高橋進システム事業部主席)。
当時はまだ広域イーサネット・サービスは存在しなかった。
そんな中,CWCが広域LANサービスを開始した。広域LANサービスには,(1)料金が専用線に比べて安い,(2)拠点追加やアクセス回線の変更が容易,(3)これまで使ってきたルーティング・プロトコルが使える,(4)印刷業界とのやり取りで頻繁に利用するAppleTalkをそのまま通せる,(5)アクセス回線のインタフェースがイーサネットなので機器がネットワークの拡張に対応できる――などの魅力があった。
そこで富士写真フイルムは,この画期的な新サービスに飛び付いた。「初期ユーザーであるリスクを勘案しても,このサービスしかないと思った」(富士フイルムコンピューターシステムの浅田康二システム事業部主査)。
IP-VPNは検討にも及ばなかった
その後,日本テレコムが最初のIP-VPNサービス「SOLTERIA」を開始したが,「採用を検討する余地すらなかった」(浅田主査)。当時,スタティック・ルーティングしか利用できなかったからだ。
富士写真フイルムの拠点は全国に散らばっている。加えて,グループのネットワークの統合などで拠点数は増え続ける。そのインフラを支えるには,ダイナミック・ルーティングが必須だった。拠点の追加やLANのセグメント変更の手間を省いたり,IPアドレスの管理をグループ会社や事業所にある程度は任せるためだ。
広域LANサービスを使い始めて3年。富士写真フイルムのネットワークは,全国約20拠点とグループ会社約20社を収容する巨大なグループ・ネットワークに生まれ変わっている。この社内ネットを“評価”(アセスメント)した。ポイントは,(1)運用負荷,(2)アプリケーションのレスポンス,(3)コスト――の三つである。
広域イーサの採用は大正解
第一の評価ポイントである運用負荷は目的を達成。大幅な軽減に成功した。広域LANサービスの採用を決めた段階で,新ネットワークには多くの拠点が追加される予定になっていた。現在広域LANサービスに収容する拠点数は,当時の2倍を超える。「専用線をベースにした従来のネットワークでは,繰り返し起こる拠点の追加に対応できなかった」(浅田主査)と振り返る。
富士写真フイルムの旧ネットワークは,専用線をリング状につないだ自営フレーム・リレー網。拠点追加や帯域の変更が発生すると,「まず『どの拠点とつなぐのか』から始まって,接続する拠点間ごとの帯域を設計しなければならない。1拠点当たり10人日ほどかかっていた」(浅田主査)。
これが,広域LANサービスに切り替えた後は2人日程度で済むようになった。パソコンの増減や部門変更により,LANセグメントにも変更が生じるが,OSPFによるダイナミック・ルーティングが使えるので手間がかからない。「初期ユーザーということで心配していた障害も,年に1~2回程度しか発生していない」(高橋主席)。
予想外のレスポンス問題に悩む
評価の2点目はレスポンス問題。広域LANサービスを採用したことには全く後悔はないが,予想外のトラブルには長期間に渡って悩まされた。アプリケーションのレスポンスが悪い拠点が発生したのである。レスポンス問題は大きく二つあった(図)。
第一に,半2重のアクセス回線メニューを採用したことが原因で起きた問題。新ネットワークの稼働直後から,半2重のアクセス回線を採用した拠点のうち数カ所でノーツなどのアプリケーションのレスポンスが悪くなった。
富士写真フイルムが広域LANサービスを採用した当初,6Mビット/秒以下のアクセス回線には,各拠点に設置するLAN-TAのLAN側ポートが半2重となるメニューしかなかった。「バックボーンの構成機器の問題で低速品目では,半2重のメニューしか当時は提供できなかった」(CWC)ためである。
データ・センターや本社など中小拠点からのアクセスが集中する拠点に関しては,東西NTT地域会社のATM専用線「メガリンク」で12Mビット/秒以上の品目を選択した。これらの品目で使うLAN-TAのポートは全2重方式。だが比較的トラフィックが少ない拠点については,コストを抑えるために半2重の低速品目を採用していた。
LAN-TAとCWC網との間は,メガリンクのほかエコノミー専用線のディジタルアクセス(DA)を利用。どちらも全2重の回線である。しかし,拠点内のLAN-TAとルーターの間,CWCの網内のスイッチと同じくCWC網内のLAN-TAの間がいずれも半2重だった。このためトラフィックが増えると,LANからWANに向かうMACフレームと,逆向きのMACフレームが衝突(コリジョン)して,レスポンスの低下を招いてしまったというわけだ。
ATM専用線はデータを53バイトのATMセルに分割しヘッダーを付加して伝送するため,伝送路の80%程度しか速度が出ないと予測していた。ところが実際にはコリジョン問題の方が大きく「3Mビット/秒品目では,実トラフィックが2Mビット/秒を越えると目に見えてレスポンスが悪くなるケースもあった」(浅田主査)。
2002年秋にCWCが低速品目でも全2重での提供を開始。順次全2重品目への切り替えを始めた。足かけ3年でこのトラブルは解決した。
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図 アクセス回線でレスポンス問題発生 アクセス回線の品目によってレスポンスの悪い拠点が発生した。様々な対策を講じたものの,最終的にはアクセス回線品目を変更することで対処した。
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