企業合併でIP電話機1200台を導入
WANは2系統に分けて障害対策
広域イーサのQoSと帯域管理装置併用で音質確保用

コニカミノルタホールディングスは,旧コニカと旧ミノルタをつなぐWANを広域イーサネットで構築。同時に自営のIPセントレックスを構築し,東京と大阪の4拠点にIP電話1200台を導入した。

(野沢 哲生)

コニカミノルタ
ホールディングス
IT企画管理部担当
常務執行役
新谷 恭将氏

 コニカミノルタホールディングスは,旧コニカと旧ミノルタの本社機能を統合した持ち株会社として2003年8月に発足。10月1日には,販売会社や事業部のほとんどを持ち株会傘下の事業会社として再編した。合併の動機は,「このまま業界の4番手,5番手に甘んじていては生き残れないという危機感があったためである」(新谷恭将IT企画管理部担当常務執行役,写真)。

合併発表時にIP電話導入を決定

 旧コニカと旧ミノルタが今回の合併を最終的に決めたのは2003年1月のこと。その翌月の2月には,WANを刷新し,内線電話網にIP電話を導入することを決定した。

 まず,新拠点となる東京の本社や大阪の関西支社,そして旧コニカ,旧ミノルタの自営データ・センターの計4拠点に導入し,8月の持ち株会社発足とほぼ同時に本格運用を開始した()。

 4拠点に導入したIP電話機は,約1200台。東京本社や関西支社には,同居する事業会社の一部を除いて従来型のPBXは置かず,代わりに米シスコ・システムズ製のLANスイッチやVoIPゲートウエイ機能を持つルーター,電話の呼制御機能を提供する装置「コール・マネージャ」の組み合わせでPBX機能を実現した。コール・マネージャは5台を4拠点に分散して設置したが,それらは東京・八王子のデータ・センターで集中管理。いわゆるIPセントレックスのシステムである。

 内線電話網を電話機も含めてオールIP化した理由は,「通話コストやシステムの各種コストが安いからというより,ユニファイド・メッセージの実現など新しいアプリケーションの発展性に注目したため」(新谷常務執行役)だと言う。

2社の広域イーサで役割分担

 4拠点をつなぐ新規のWANには,パワードコムと日本テレコムの広域イーサネット・サービスを採用した。通常時はパワードコムの「Powered Ethernet」をデータ通信用に,日本テレコムの「Wide-Ether」を音声用に利用。どちらかのサービスが停止した場合は,自動的に残ったWANにデータと音声の両方のトラフィックを流す設計にした。そのため,Wide-Etherのアクセス回線の帯域もPowered Ethernetのアクセス回線と同じ10Mビット/秒を確保している。

 WANのルーティング・プロトコルには,シスコのEIGRPを採用。また,障害時のWANの自動切り替えプロトコルにも,やはりシスコのHSRPを利用する。これらの導入,設定はシステム・インテグレータのネットマークスが担当した。

 コニカミノルタ・グループの情報システムを担当するコニカ情報システムズの紀太章ネットワーク技術部次長は,IP-VPNでなく広域イーサネットを選択した理由として,「従来のWANがコニカ,ミノルタ共に広域イーサネット・ベースだったことや,IP-VPNにするとルーティング・プロトコルに,BGP-4が必要になり,障害時のWANの切り替え設定や運用が複雑になる」点を挙げる。

広域イーサでのQoS確保に苦心


 ところが,広域イーサネット・サービスには難点があった。WANの選択肢を検討していた6月時点では,IP-VPNでは既に当たり前になっている音声の優先制御などQoSを確保するオプション・サービスが,ほとんど提供されていなかったのだ。

 WANを音声専用に使っているときでも,音声のほかにルーティング情報や呼制御情報などの制御用信号が流れる。しかも,データ用のWANが停止したときは,データと音声の両方が流れ込んでくる。このため,コニカミノルタは,WANに音声のQoSを確保する機能が必要だと考えた。

 音声用のWANに日本テレコムのサービスを選んだのは,WAN選択の検討中にタイミング良く,「日本テレコムが広域イーサでQoS確保サービスを始める」と伝え聞いたからだ。一方,データ用のWANをパワードコムにしたのは,「パケット転送時の遅延が少ないという評判を聞いていたため」(コニカ情報システムズの紀太次長)と説明する。

 ただし,日本テレコムのWide-Etherが提供するQoS確保サービス「アクセスQoS」は,広域イーサネット網の出口に帯域管理装置を設置して,網からアクセス回線へ流れ出すトラフィックで優先制御するだけのサービス。IP-VPNにあるQoS確保サービスと異なり,網内のパケット転送にはQoSの機能はない。しかもアクセス回線から網に入るトラフィックには関与しない。ユーザー側でQoSの設定や制御をする必要がある。

 コニカミノルタは,LAN内のL3スイッチでQoSを設定。その上で,アクセス回線のLAN側に設置した米パケッティアの帯域管理装置「PacketShaper」を使って,LANからアクセス回線に流れるトラフィックのQoSを確保した。

 優先順位は,EIGRPのルーティング・プロトコルを最優先,音声をその次に優先させる設定にした。呼制御情報や保留音の転送は優先度を低く設定した。

図 コニカミノルタホールディングスの情報ネットワーク
東京本社や大阪の関西支社の新設に伴い,内線電話網に自営のIPセントレックスを導入し,電話機もすべてIP電話機に統一した。音声とデータはLANではVLAN,WANではネットワークを分けることで音声のQoS(サービス品質)を確保した。

※本記事は日経コミュニケーション2003年10月13日号からの抜粋です。そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。