年間の通信コストを5億円に半減
約100拠点すべてを広域イーサネットに収容
重要通信は別系統にしてコストと信頼性を両立


東京ガスは4月から,約1年をかけて社内ネットワーク「TG-NET」を一新する。従来のATM専用線から広域イーサネット・サービス中心に変更すると同時に,内線電話網にIPセントレックス・サービスを採用。通信コストの半減を狙う。
(阿蘇 和人)

 東京ガスが新ネットワーク導入に当たって至上命題としたのはコストの削減。結論が,IP電話事業者による内線電話サービスであるIPセントレックスなど,最先端のサービスの活用だった。設備投資や保守・運用費用を含めた通信コストを年間5億円に半減。システム・インテグレータ(SI)を活用して,コストを最適化できるコンポーネントを組み合わせる。

高信頼と引き換えに年間コスト10億円

 現在運用中の約100拠点を結ぶ社内ネットワークは,主要拠点をATM専用線と自営無線網で結び,そこから配下の事業所を高速ディジタル専用線で結ぶ構成。99年から2001年にかけて整備した。

 主要拠点間は,データはATM専用線,音声は保安部門から無償で借りた都市ガス供給用の自営無線ネットワークで中継している。各事業所はデータ・音声とも同一の高速ディジタル専用線を通すが,TDM(時分割多重装置)を使って帯域を分けている。

 ATM専用線が不通になった場合,データ通信は自営無線にう回させる。自営無線は「12拠点をループ状に結び,どこか1カ所が切れても通信を確保できる」(情報通信部 ITインフラ・マネジメントグループの森忠宏主幹)。

 東京ガスは,公共インフラ事業を営む企業として,高い信頼性を確保してきた。その結果通信コストは,設備更新や保守・運用の費用で年間10億円にも達している。

“コスト3割減”を前提に徹底見直し

東京ガス 情報通信部
ITインフラ・マネジメントグループ マネージャー
田井 秀男氏

 そんな東京ガスにとっても,「他業種からの参入自由化などにより競争力の向上が重要な課題」(ITインフラ・マネジメントグループの田井秀男マネージャー,写真左)として浮上。そこで2002年4月,通信コストの3割削減を前提に,NTTデータのコンサルティングを受けながらネットワーク再編の検討に着手した。

 現在の社内ネットワークの年間コストは,PBXだけで3億5000万円。そのほかに,約100拠点2万台の内線電話とデータ通信で使うWAN(広域網)サービスが5億円,WAN接続用機器が1億5000万円かかっているが,3割削減の目標達成には,内線電話網の見直しが不可欠だった。

 東京ガスは,100台もあるPBXのうち年間10台程度を買い替えており,設備投資と設置工事で年間2億5000万円前後,保守費用が1億円に達する。さらに導入や運用に携わる人員をグループ企業内に7人抱えている。

 そこで,事業所ごとに設置してあるPBXを減らしてコストを削減するには,内線電話のIP化がカギを握ると判断した。問題になったのは,信頼性。このため,通信を重要度で分けて,信頼性の高い一部の通信を別系統にすることで,信頼性とコスト削減の両立を目指すことにした。

IPセントレックスが半減の決め手

 同時に,WAN部分のネットワークの全面アウトソーシングを決断した。「WANや内線電話の最適な組み合わせを一貫したサービスとして提供させることで,コストと品質を両立できる」(田井マネージャー)と考えたからだ。

 東京ガスが仕様を定めて,提案を募ったのは2002年7月。この段階では,IP電話をあえて必要条件にはしなかった。信頼性や機能など,確保すべき要件を定めて,内容は提案するベンダーの裁量に委ねた。

 メーカーや通信事業者を含む18社の提案を勝ち抜いて,アウトソーシングを手掛けることになったのは,NTTデータ。決め手は,コンサルからかかわってきたからではなく,提案したコスト削減幅が最も大きかったからである。「IPセントレックスを軸に最適なコンポーネントを組み合わせることが,コスト優位であることを証明した」(田井マネージャー)と振り返る。

SIP準拠のIP電話機は機能を厳選

 新ネットワークで東京ガスは,ケーブル・アンド・ワイヤレス(C&W)IDCの広域イーサネット・サービスを経由して,フュージョン・コミュニケーションズのIPセントレックス・サービスを利用する()。単純に内線通話だけをIP化するのではなく,外線とのやり取りにIP電話サービスを使うことで,外線通話の料金も全国一律3分8円と,大幅に安くする。

 フュージョンのIPセントレックス・サービスを使えば,事業所ごとに設置してあるPBXは不要になる。

 IP電話機は,呼接続にSIP,音声符号化にG.711とG.729を使うという条件を示して,NTTデータがユニデンから調達した。IP電話機1台の調達費用は約1万5000円。PBXの内線当たりのハード/設置工事費用の約8分の1で済む。標準準拠の仕様を示して調達することで,従来のIP電話システムと比べても大幅に安くなった。

 ただ,標準に準拠するだけでは,代表着信や保留,グループ・ピックアップといった内線通話に特有の機能をすべて実現できるわけではない。そこで東京ガスの情報通信部は,エンドユーザーにヒアリングして,必要な機能を洗い出した。

 それを受けてNTTデータが,IP電話機メーカーとIP電話事業者の間に立って調整した。「実装した機能は,40種類強」(NTTデータ 法人ビジネス事業本部第二法人ビジネス事業部の松田次博ネットワーク企画部長)。機種によっては400を超えるPBXに比べれば少ないが,「一般企業が利用するのには十分」(松田部長)と見る。

図 IPセントレックス・サービスの利用で内線電話網の年間コストを2億円以上削減
これまで内線電話網にかかっていた費用は,約100拠点のPBX更新・運用費用だけで年間約3億5000万円。IP電話サービス事業者が提供するIPセントレックス・サービスでこのコストが不要になった。


※本記事は日経コミュニケーション2003年3月17日号からの抜粋です。 そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。全文は同号をご覧下さい。そのためにはバックナンバーとして同号だけご購入いただくか,日経コミュニケーションの定期購読をご利用ください。