LANをFDDIからギガ・イーサ(GbE)に更新
スイッチを2重化し,障害時は自動切り替え
基幹スイッチは速度優先でレイヤー2を選択


フジテレビジョンは2002年6月,ギガビット・イーサネット(GbE)による社内LANを稼働させた。24時間放送体制を強化するため,スイッチを2重化して耐障害性を向上。基幹スイッチは256Gビット/秒の処理能力を備え,映像配信にも対応する。
(玄 忠雄)

 今年2003年,テレビ局は大きな節目を迎える。50年にわたり屋台骨を支えてきた現在の地上波テレビ放送を,ディジタル方式に移行させるという大事業が12月に始まるからだ。

 2002年に社内LANを更新したフジテレビが,この変革期の社内業務を支える幹線系ネットワークに選んだのはギガビット・イーサネット。97年に東京・台場の新社屋への移転時に導入したFDDIから一気に更新した。

 同時に,ユーザー端末などを集線する支線系LANを10BASE-Tから100BASE-TXに刷新。映像を使った業務アプリケーションを,エンドユーザー部門が自在に活用できるようにとの判断からだ。

「費用増でも業務に貢献するLANを」

 フジテレビにとって,地上波テレビのディジタル化は,5年前から取り組んできた事業拡大戦略の集大成でもある。これまで地上波という単一メディアだけで高収益を上げてきたが,ディジタル化の進展に伴い経営方針を転換。98年にCSディジタル放送,2000年には関連会社を通じてBSディジタル放送事業に参入した。三つの放送メディアを使い分けて番組の再利用や制作能力を強化し,新しい視聴者層や収益源を開拓するのが狙いだ。

フジテレビジョン
情報システム局長
渡部 郁夫氏

 ただし,新しい放送サービスはまだ収益に貢献しておらず,「サービスの数が増えても現状の1400人弱の社員で乗り切ることが経営側の要請」(フジテレビの渡部郁夫・情報システム局長:写真)である。そこで新しく構築したネットワークには,「現場の業務効率化を促し,番組制作能力を高める有効なツール」(同)という役割が求められている。

 フジテレビが今回のLAN更新に投じた費用は,スイッチなどのネットワーク機器に約4億5000万円,工事費に約1億円。97年のFDDI導入時は,新社屋移転に伴い総額で約15億円をかけたが,機器費用はこのうち2億8000万円。LAN更新で投資額は前回よりも増えたが,渡部局長は「あくまで業務への貢献が優先。経費圧縮にはこだわらない」と言い切る。

OSPFで障害時は10秒で切り替え

 社内LANの更新では,構築・導入を担当するネットマークスに加え,設計の支援役として日本IBMがプロジェクトに参画。この設計段階でフジテレビが重視したのは,(1)24時間放送体制を支える耐障害性の向上,(2)ネットワーク管理の容易さと運用コスト削減,(3)新しい業務アプリケーションに耐えられる性能と機能――である。

 テレビ局は突発的な災害・事件報道に備え,24時間放送体制を強化している。その上,CS放送,BS放送など扱うメディアの数が増え,報道局などの制作現場のオンライン化も進行中である。家庭に向けて放送するテレビ映像自体は専用の回線や機器で扱っているものの,社内LANの停止が即,放送事故につながるリスクは以前より高まっている。

 そこで新しいLANでは,スイッチなどのネットワーク機器をほぼ全面的に2重化した()。ルーティング・プロトコルにOSPFを採用し,障害の発生時は自動的に10秒程度で経路を切り替える。

 2重リング構成を採用した従来のFDDI網も,回線断の際は経路をう回するという耐障害機能を備えていた。しかし,サーバー群を収容するルーターが故障した場合は,業務全体への影響が避けられなかった。

機器台数を減らして管理を容易に

 (2)の運用コストの削減については,まず処理性能が向上したスイッチを採用し,端末の収容効率を引き上げることで機器の台数を減らした。

 従来のFDDI網は,リング上に複数のルーターを配置して伝送距離を稼いだ上,トラフィックの分散を狙い用途ごとに複数のリングを敷設。このためルーターは合計で120~130台にも上っていた。

 その結果,「障害が発生すると膨大な数のルーターの中から故障機器と設置場所を特定し,急いでその場所に駆けつける」(伊藤春男・情報システム局システム企画部専任部長)という状況。また「IPアドレスの管理も手間で,アドレス空間を有効に使いにくかった」(松原宏幸・システム企画部副部長)と振り返る。

 新しいLANは,処理性能の向上した最新のレイヤー2(L2)スイッチやレイヤー3(L3)スイッチを使うことで,IPアドレスが必要な機器の総数を十数台に抑えた。しかも,大半のスイッチをマシン・ルーム内に集中設置する網構成を取った。これにより「IPアドレスの管理から障害対策まで,運用・管理は圧倒的に楽になった」(松原副部長)。

 このような「機器の分散配置から集中配置」へのシフトに伴い,フジテレビは社屋内に敷設する光ファイバ網を,マルチモード光ファイバ(MMF)から長距離伝送に向くシングルモード光ファイバ(SMF)に張り替えた。今回採用した1000BASE-LXとSMFを組み合わせた時の伝送距離は最大5km。二つの棟を横につなげた格好の新社屋を周回する通信にも余裕で対応できる。将来の10ギガビット・イーサネットの導入を考慮しても,SMFへの更新が最良と判断した。

映像を扱えるだけの大容量を確保

 以前のLANもトラフィックを複数のFDDIリングに分散させていたため,「帯域面での不満は全くなかった」(伊藤専任部長)。それでも新しいLANでは,L2の基幹スイッチとその配下のL3スイッチをそれぞれ4本のGbE回線で接続。当初から,あり余るほどの帯域を確保した。

 さらに「基幹スイッチは処理速度を重視してL2を選定した」(同)。また2重化に当たって,他のL2/L3スイッチは通常時は片方のスイッチしか動かしていないが,基幹スイッチは常に2台を稼働させている。このため交換処理能力は最大256Gビット/秒に向上し,多数のGbE回線を集線できるようになった。

 これだけの帯域と処理能力を確保したのは,社内業務用アプリケーションに映像を活用したいという気運が現場や情報システム部門で高まっているからだ。

 その例が,過去の番組やニュース映像を蓄積し,ユーザー端末から検索・閲覧できる「映像アーカイブ・システム」。社内で導入に向けた検討組織が立ち上がっており,2004年にプロトタイプの開発,試験運用に着手する。

図 フジテレビの社内LANの構成
ギガビット・イーサネット(GbE)を採用し,スイッチと配線をほぼすべて2重化。障害時はOSPFで切り替える。マシン・ルームから各フロアへは,従来のマルチモード光ファイバに代えて,新たに敷設したシングルモード光ファイバでつないだ。


※本記事は日経コミュニケーション2003年3月3日号からの抜粋です。 そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。全文は同号をご覧下さい。そのためにはバックナンバーとして同号だけご購入いただくか,日経コミュニケーションの定期購読をご利用ください。